一般人の母親から生まれる。父親不明で小学校中学年まで母子家庭で育ってきた。
　元々は女手一つで育ててくれている母親のために、将来は恩返しをして楽になってもらいたいと願い努力する娘と、そんな娘を頼りにしつつ応援する母親との、温かい家庭環境だった。しかしある日、母親が新しい男に夢中になると次第に人が変わったように樹を邪険にし、新しい男と共に暴力を振るうようになる。それでも、いつかは元の優しい母に戻ってくれると信じて黙って受け容れていた。
　身体中に痣ができ、食事も満足に与えられず弱っている姿を見た学校の教師が児相に連絡すると、両親は上手く誤魔化し、八つ当たりをするようにまた暴力をふるった。それでもいつか、いつか必ず…そう願って部屋の隅で声を上げずに泣きながら怯える日が続いた。

　そんなある日、日常は一変した。いつものように殴られてついにまともに動くことも出来なくなり死を覚悟した瞬間、気が付けば目の前の両親は生きたまま白い炎に焼かれて死亡。騒ぎを聞き飛び込んできた警察の前には、白い雪のように舞う大量の灰と錯乱し怯える樹の姿があった。

　UGNに保護されて身体のデータを取った際、起源種のレネゲイドを持つ特異個体と判明すると同時に、当時はUGNの特殊部隊として活躍していた父、堂島芳樹の血縁者であると発覚。そのまま一度は父に預けられた。
　今まで生きているのかも分からなかった実の父親との暮らしに不安を覚えるも、一時は平穏な生活を取り戻した。しかし数年すると芳樹は戦いに取り憑かれ、いつしか起源種である自分の力を引き出させようと数々の拷問をするようになり、またしても痛みと恐怖に怯える日々が、それも前とは違い、一般人であれば確実に死ぬような拷問を何年も、何度も受けてきた。極めつけはオーヴァードとしての能力（EE、ブラッドリーディング）で相手が自分への愛情を全て棄て、ただ純粋な悪意を持っての行動と知ってしまった。

　芳樹がFHへ寝返ったという報せが届くと施設へ預けられ、他のチルドレンと同じように育てられるようになった。
　これまでの環境で完全に心を閉ざし、大人を信用できなくなっていた上で、同じチルドレンからも起源種としての力を妬まれて孤立。せめてこれ以上痛い思いはしなくて済むように、できるだけ怒らせないように…そうして周囲の顔色を窺い、殺されないために任務を忠実にこなしていくようになった。


　月日が経った現在、未だその癖は抜けておらず、自分の意見をハッキリと言えない状態だが、同じ支部でチルドレンの面倒を見ていた西条奏には愛情をもって接せられ、彼女を含めた極僅かな大人には心を開き、信頼できる相手が出来た。今は彼らのために、ようやく見つけた自分の居場所を護るために戦う。

父である堂島芳樹を止めるためにひたすら強くなろうと努力を続けう樹を面倒見て育ててくれた秋。彼に教えられた「その力は人を殺めるためのものではない。人を救える力に出来る」という言葉に支えられ、彼を助けるために戦う。
全てが終わった後、父のように想い慕ってきた彼に"お父さん"としてこれからもずっと一緒にいてほしいと願った。