今はなきヨーロッパのとある小国の出身。その国ではUGNとFHの対立によってオーヴァードによる内戦が行われていた。｜終末戦争《レネゲイドウォー》は多くの犠牲者と難民を生み、戦闘によってレネゲイドウイルスに汚染された土壌は多くのオーヴァードと｜なり損ない《ジャーム》を生んだ。後に無量塔十一を名乗る少年は、オーヴァード同士の戦闘によって両親を失い、UGNノースの難民保護プログラムによって保護された。しかし、この裏には戦争によって消耗したオーヴァードをレネゲイドウイルスに感染した難民から補おうとする非人道的な真実があった。難民の少年少女によって構成された部隊は｜名もなき兵士たち《エインフェリア》と呼ばれ、激戦地に配置された。
戦争がUGNの辛勝によって終結したとき、100人ほどいたオーヴァードは11番目に入隊した少年一人を残して全滅していた。

数年後、青年へと成長した少年は｜無量塔ジュウイチ《無数の中の十一人目》を名乗り、極東のUGNに所属していた。UGNエージェントとしての任務は御伽刃カンナという駆け出しのチルドレンとバディを組み、彼女を一人前のエージェントとして導くことだった。カンナとバディを組んだ当初は戦争や暗殺という｜汚れ仕事《ウェットワーク》の経験しかないジュウイチとカンナは価値観の違いから衝突することも多かった。ある任務の最中、カンナが危機に陥ったとき、身を挺して彼女を救った。以前の部隊においては、仲間の生死よりも任務の成否を選択することを強制されていたジュウイチは、なぜ自分がそのような行動を取ったのか理解できなかったが、カンナの「ありがとう」という言葉を聞いて、思わず流した涙が答えなのだと気づいた。

カンナを救った以降も数年間に渡って、多くの任務を遂行していたが、ある任務の最中にカンナは能力を暴走させてしまう。不幸中の幸いにも一般人に犠牲者は出なかったが、この事件を機にカンナはエージェントの任務を外れ、後進を育てる裏方へと回ることになった。しかし、数年間のバディとしての生活はジュウイチとカンナの間に単なる相棒以上の絆を育んでいた。結局、二人はその関係に名前を付けることはなかったが、カンナが何気なく呟いた、「ジュウイチがUGN支部長になって楽をさせてくれればいいんだけどな」という言葉は、UGNに所属して以降、目標もなくただ命令のままに任務を遂行していたジュウイチに初めての希望と目標を与えるには十分な力を持っていた。

UGN施設出身のチルドレンや、一般的な出のエージェントならともかく、特殊な出自かつ何の後ろ盾もないジュウイチがUGN支部長になるためには、これまで以上に厳しく険しい道を行く必要があった。｜自分の城を手に入れる《UGN支部長になる》ため、ジュウイチはUGN中枢議会に揺るぎない忠誠を見せる必要があった。UGN上層部はジュウイチの出自の特殊性に目を付け、FHへの長期間の潜入任務を言い渡した。FHへの潜入任務はUGN内部でも極秘裏に行われるため、ジュウイチはカンナに理由も言えないまま別れを告げ、FHへの単独潜入任務に赴いた。FHでの潜入は困難を極めたが、｜同胞《UGN》であると知りながら戦う殺伐とした日々の中で、｜在りし日《エインフェリア》に戻ったような安心感を覚えたことは、誰にも話すことが出来ない秘密であった。

5年間の潜入任務によって手に入れた情報の正確性や貢献性から、ついに評議会は新設する亜備須市のUGN支部長の座をジュウイチに用意した。しかし、望むものを手に入れたにも関わらず、手放しで喜ぶことが出来なかった。5年前はあれほどに欲しかった支部長の座を求めていた理由がどうしても思い出せないためだ。
そんな矢先、UGN日本支部副支部長ローザ・バスカヴィルの忠言により、ジュウイチはUGNへの忠誠を今一度示し、自身が｜二重スパイ《ダブルクロス》でないことを証明する必要があった。これに対し、FH時代に関わりがあった組織を壊滅させることを宣言し、評議会はこれを承認した。評議会側には任務中にジュウイチが死亡することで、任務自体を消し去りたいという思惑があることは明白だった。しかし、この裏には｜記憶を封じた男《ハート・ロッカー》を葬るというジュウイチの思惑も確かに存在していた。