出自：日本政治家の家系、稀代のマルチプレイヤー

　日本の政治家一家である中倉家の三男である。
　ほか二人の兄は芸術コンクールなどで最優秀賞を取るなど芸術面に秀でていたが、彼は運動面、特に陸上競技で非常に優れた成績を修めた。
　全距離を走れるオールラウンダー、幅跳び、高飛び、障害、砲丸投げまでこなす。
　長身の筋肉質という恵まれた体格にバネのある脚、陸上競技の申し子(マルチプレイヤー)とまで言わしめた天性の肉体である。
　政治家の家系として子が優秀なことは、その政治家の格をあげると言っていいだろう。父である政府官僚官僚の中倉陸堂は３人の子にそれぞれの分野で名を上げることを期待していた。
　獅童もこの当時は自身に満ち溢れ、気さくないいヤツだった。

経験１：選手生命の喪失

　しかし獅童は高校二年の春。インターハイにおいて膝に故障を起こす。
　その故障は選手生命を絶つには十分な故障であった。軸脚に膝蓋腱炎(しつがいけんえん)、もう片方の脚に腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)を同時に発症したためだ。両脚に痛みを感じた獅童は競走中にそれぞれの脚の炎症により転倒。足で支えることができなかったため腕で加速している身体を庇い右腕を開放骨折。
　史上でも稀に見る大事故であり、獅童の残りの選手生命は当然の絶たれることになった。

　獅童は人生のはしごを唐突に外され、茫然自失となった。

経験２：オカルト、そして民俗学との出会い

　脚は全力で走ることはできなくなったが、日常生活に支障はないほどには回復した。
　しかし人生の目標を失った獅童は大学へ進まず、かといって就職もせず自宅でなにもできない日が続いた。
　兄たちはその分野で名を上げていき獅童のことに気を回す余裕はなく、父は獅童の事に関してなにか言いたげなところはあるかもしれないがアクションを起こさない。唯一、母だけが獅童を気にかけていた。
　獅童は徐々に立ち直り二年遅れてではあるが大学に入学しキャンパスライフを送ることになる。
　ミスカトニック大学と親交の深い、日本の中でもグローバルな大学である。
　そこであるサークルと出会うことになる。「オカルト研究会」である。
　
　友人の誘いでオカルト研究会というサークルに入会し、オカルトに傾倒していった。
　あるときは自殺の名所めぐり、あるときは心霊スポットで肝試し。少々特殊であるが、普通の大学生を謳歌していたと言っていいだろう。彼は大学生活を神秘の探求に４年費やしたと言っていいだろう。
　大学では文化人類学を専攻し、それ自体もオカルト研究会における活動の一環として捉えていただろう。
　そんななかで獅童はあることに疑問を持つようになった。この世界の様々な人類文化における異様なまでの整合性。
　ヤマトタケル伝説における、まつろわぬ民の存在などなど。文化や民間伝承における勝者により紡がれた歴史。
　その実態とはいかなるものなのか。彼はオカルトを通じて民俗学への道を進んでいくことになる。

　彼は大学在学中にミスカトニック大学との交換留学生に選ばれ、アメリカに渡る。
　そこで彼は様々な文献を元にある仮説を立てた。この世界は正気ではないのではないかと。
　中倉獅童は深淵の世界に身を投じていくことになる。

経験３：マンハッタン事変後、無名都市とミスカトニック大学の狭間にて

　マンハッタン事変後、ミスカトニック大学は"偽神の心臓(ファルスハーツ)"や米国政府ですら表立った干渉を行わない神秘禁忌書庫(アカシックレコード)と言える場所となっていた。
　当時、獅童は教授の助手という形で在籍しており、教授の元で邪神にまつわる魔導書であったり、遺物などを仔細を知らされることなく収集業務にあたっていた。
　その最中に獅童の人生を変える出来事が起こる。

　ＵＧＮの中枢である無名都市。
　獅童はある邪神の遺物(レリック)の配送役の命を受けてミスカトニック大学からやってきた。
　その際に"偽神の心臓(ファルスハーツ)"の襲撃を受ける。ＵＧＮからどうやら情報が漏れていたらしい。
　ＵＧＮの護衛部隊は全滅。そんな中でかろうじて生き残っていた獅童は破れかぶれで邪神の遺物(レリック)の封を解き、状況の脱却を試みた。
　しかしそれは遥か２７光年先のＧ・Ｏ・Ｏ(グレート・オールド・ワン)の数少ない地球上に存在する遺物だ。
　生ける炎(クトゥグア)――それが旧支配者(グレート・オールド・ワン)の名である。

　生ける炎(クトゥグア)の力をその身に宿し、"偽神の心臓(ファルスハーツ)"を撃退した獅童は事の顛末をミスカトニック大学とＵＧＮに共有。
　ＵＧＮとミスカトニック大学にて協議した結果、獅童はミスカトニック大学をバックに据えた工作員として活動することになる。

現在：邪神を狩るもの

　獅童は着実に生ける炎(クトゥグア)の侵蝕を受けている。
　それの最終目的として月に吠えるもの(ニャルラトホテプ)を狩るところにある。
　２年弱の短い月日で彼の精神構造は邪神の化身を殺すことにある種の快楽を感じるようになってきている。
　いずれ自分自身が邪神の化身となり、その身を焦がすことがあるならば。
　それはまた大きな惨劇を引き起こす引き金となりえるのかもしれない。
　
　だが、そうなるのはまだ先の話だろう。少なくとも今この瞬間までは――