本当の彼女は、狂気のサディスト。
ＦＨに所属したのは、自らの倒錯した加虐欲求を満たすためであった。

相手の心を手折り、自らの色に染めるコトに快楽を覚える。肉体的加虐のみならず、精神的加虐も好む。
彼女にとって加虐行為は、この虚飾に塗れた世界にあって、お互いの本性を曝け出すというプラトニックな行為。
特に『人間の悲鳴』を好いている。
純粋無垢でありながら背徳感に満ちて退廃的な"至高の芸術"だと考えており、彼女の音楽活動の糧になっている。
その他のほとんどの芸術作品は"小手先だけの下らない贋作"だと思っている。
事実、彼女の演奏は「ヒトの本質に迫った表現」だと絶賛を受けているのだから、あながち誤りでもないのだろうか。
────さておき、綺麗な薔薇はやはりトゲがあるものらしい。

遺産『色慾の魔眼』と契約した、遺産継承者のひとり。
あらゆる音声を視界で捉え、「色彩」を視ることができる。共感覚の持ち主。

ヒトの色彩は、そのとき抱いていた感情によって変化する。
普段はぼんやりしているが、ヒトが強い感情を抱いた際には美しく輝く。
彼女はヒトの色彩を、自らの望むように変化させることを好む。
「加虐欲求」のみならず、「支配欲求」を併せ持っているのだろう。
色彩の中でも、とりわけハッキリして美しいのが「絶望」の黒。
憤怒の赤や悲哀の青、様々な色が織り成す絶望の花は、世界の何より美しい。
この背徳的かつ退廃的な黒を見るために、彼女は取り憑かれたように暴虐の限りを尽くす。

戦闘では、ヴァイオリンの弓を装備。
ブラム=ストーカー能力者らしく、血液操作を行ない「血の茨」で戦う。
なお、魔眼の真価は「対象の色彩を塗り潰して感情を支配する」事にあるが、こちらは滅多に使われることはない。
遺産継承者としては、単独の戦闘能力は低め。
またＦＨ戦闘員としては珍しく、殺人は忌避しているので危険度も低い。
……もっとも、彼女に敗北してしまった場合、死ぬよりも辛い目に遭うことは覚悟した方が良いだろうが。

世界トップクラスの表現力を誇る、天才ヴァイオリニスト。
遺産『色慾の魔眼』で見たヒトの感情の色彩にチューニングすることで、
彼女はヒトの感情を、楽器の音色で完全再現することができる。(演奏の色彩を寄せていく)
これこそ、彼女が「ヒトの本質に迫った表現」を可能とする秘訣である。表現者として至高の力だ。
……勿論、魔眼があっても音楽の才がなければ不可能な神業ではあるが。

なお、演奏はすべて自社製のヴァイオリンで行なっており、
『WANANAKI CORPORATION』の広告塔の役割を担っている。

音楽に関しては、天賦の才がある。
一度は聞けば、完璧に曲を覚えられる。
二度も聞けば、その歌声で心を震わせることができる。
が、ダンスは苦手。運動神経もよくない。

ヴァイオリニストとして国内外からスカウトを受けており、クラシック界から将来を嘱望されていたが……
彼女が選んだのは、何故かアイドルの道であった。
今はヴァイオリニストとしても活動する傍ら、二足の草鞋でアイドル業も行なっている。
直近の活動は、ファム・ファタールの楽曲でヴァイオリンカバー動画を上げたこと。

協賛企業の令嬢であるために、特別待遇を受けている。
ファム・ファタール所属のアイドルが行なう「接待」は、基本的に免除されている。
当人としては「男があさましい欲望を剝き出しにする場」に興味はあるのだが、社長令嬢の立場があり……
というのは建前。イカれた加虐欲求を持つ彼女に「接待」させるのはリスキーだからだ。

彼女はファム・ファタールの暗部に、地下の『音楽室』に入り浸っている。
音楽室では彼女の音楽活動、すなわち拷問が行なわれている。
飴と鞭の「鞭」に該当しており、他のエージェントが「飴」を与えることによって、
ファム・ファタールが、対象を懐柔することに貢献している。

所属エージェントには(基本的に)柔和な態度で接しているが、
彼女が特別待遇を受けることの不平不満を募らせるエージェントや、彼女の本性を知るエージェントからの評判は良くない。
特段、彼女はそれを気にした様子はなく、
「手を出してきてくれたら、粛清って大義名分で悲鳴が聞けるのに」と考えている。

小学校入学後、イバラは母親と死に別れる。
幼いイバラにとって、母親との死別は耐え難く、
また父親の愛は「ヴァイオリンのスパルタ教育」という望まない形で注がれた為に、家庭でも学校でも孤独であった。
そんなある日の放課後、音楽室でひとりヴァイオリンを弾いていると、クラスメイトに声をかけられる。
曰く、「綺麗な音色に誘われてきちゃった！」「もう少し、聞いていってもいい？」
それを切っ掛けに、イバラとクラスメイト『美森 ネムリ』は親交を深めていく。
傷心のイバラにとって、自分に親しくしてくれるネムリの存在は救いであった。

────が、ふたりの友情は永遠には続かなかった。
小学四年生の冬、美森ネムリの誕生日。
多くのクラスメイトが集い、彼女の生誕を祝う誕生日パーティーの日。
イバラだけが、誕生日パーティーに招かれなかった。
曰く、「あなたのことを親友だと思ったことなんてないよ、付き合いも悪いし」
「あなたが『WANANAKI CORPORATION』の人間だから話してあげてただけ」

真実を打ち明けられたイバラの心は深く傷つき、トラウマから人間不信に陥ってしまう。
それから程なくして、ＦＨが贈与した遺産『色慾の魔眼』と契約。
遺産の能力で「ヒトの心象(=色彩)」が視えてしまうようになり、
自分の利益のために近付いてくる人間が可視化されたことで、人間不信が加速。
「ヒトの真実の姿は、追い詰められた時しか見えないものだ」といった哲学を持ち、
"ありふれた日常"を嘘偽りに塗れたモノと嫌悪するようになった。

蹄啼イバラの「加虐欲求」と「支配欲求」は、あくまで結果。
彼女の本質は『人間不信』。
過去の経験と遺産の代償から、疑心暗鬼に陥ってしまった成れの果て。
相手を絶望の淵に叩き落としたうえで、自分の色に染めて支配することでしか、
人間を信じたり愛したり出来なくなった狂気の魔女だ。

────彼女にかけられた呪いを解けるのは、『真実の愛』だけ。
もし呪いが解けたなら、彼女はヴィランとしての生を終えるのだろう。