父は大企業の社長であった。家にろくに帰ってくることもなく、いざ帰ってきたら怒鳴る殴るで、まるで災害だった。俺や母さんは金銭に困りはしなかったものの生傷は絶えなかった。その後、会社の不祥事がばれて倒産した時には母さんを残して浮氣相手と夜逃げした。案の定すぐに捕まったがその影響もあったせいかメディアは母さんの所へと押し寄せてきた。その後もしばらくは家を転々としていった。
俺と母さんはメディアから身を隠すため、海外逃亡をした。幸い、慰謝料があったため旅費はそこまでかからなかった。現地に着くと、日本人が経営するカフェに転がり込んだ。俺と同じくらいの年の子もいて、すぐに仲良くなることができた。英語もままならない俺たちに授業をしてくれたり、何かと世話になった。今でも交流は欠かさない。
それからしばらくして、日本に帰ってからは就職をして会社勤めを始めた。しかし、会社で大きなミスをしてクビを言い渡された。短い期間であったが、今まで会社のために尽くしてきたのに一度のミスでクビというのは納得がいかず、何度も上に問いかけたが結果は変わらなかった。家に帰っても収まらず、家の中で暴れ始めた。壁を殴り、棚を壊した。そして母さんに殴りかかろうとしたところで、気が付いた。母さんの表情が、父に殴られていた時のそれであったのだ。俺は正気に戻った。そして母さんを抱きしめた。泣きながら謝る俺に何度も「大丈夫」と言ってくれたが、俺は気が済まなかった。なにがなんでも、守っていかねばならない。その決意が力となった。
そんな母のそばにいながら行える職業として探偵となり、イリーガルとしてUGNにも所属している。
母に苦労をさせないようにと二足の草鞋を履いているが、その根底は殺戮願望やもしれない。