本来の彼女は時折見せる裏切りや謀略を許さない苛烈な性格である。

桜井若歌に出会い、彼女のようになりたいと願ったことによって現在の夢野心詠がある。
彼女の笑い方、振る舞い、明るく素直な少女としての仮面、その全ては桜井若歌の模倣である。

桜井彰人とはかつて相棒として共に戦った。
道を違えたことについては残念に思いながらも仕方のないこととして受け入れ、彼の分まで戦おうと思っている。

彼とは離れてからも連絡を取ろうとしており、SNSや手紙などを頻繁に送っている。だが返事が返ってきたことはない。

「何で、ここにいるんだよ」

桜井暁都は驚きに目を見開く

罪を償うことを望み、それが希望通り叶えられた。
その先に私がいたのだから無理もないだろう。

レネゲイドを抑制する首枷。それはかつて彼と初めて会ったときの私と同じ姿だ。

「秘匿された怪物は健在だったってところかな」

笑ってはみせるもののその顔は晴れない。そもそも、桜井若歌でない笑い方などとうに忘れた。

「……俺のせいか」

「………」

私にはできなかった。天野道哉がやったようにその心に寄り添うことも、ワカと約束したように殴ってでも引き戻すことも。
私にできることはこれしかなかった。

「私もお前も、桜井若歌を裏切ったんだ」
「そう、だな」

桜井暁都は暗い顔をして俯く。ああ、また間違えた。

こんなとき、桜井若歌ならどうしたのだろうか。

あのときワカが天野道哉にしたように、頬でもつねって、顔を上げさせたのだろうか

桜井若歌ならどうするか、しか考えてこなかった私はたとえ相手が桜井暁都であろうと、私を伝える術に乏しい。

だから、こんな手段しか取れない

俯いた桜井暁都のその胸ぐらを掴み目を合わせる

「だから、お前だけに背負わせないって言ってるんだ！」

そういえば、まともに目を合わせて話したのは、あれから3年ぶりだ

「私も！お前も！桜井若歌を裏切った、だから！」

桜井若歌が愛してくれた、夢野心詠を殺してきた私と、桜井暁都を汚してきたお前、唯一無二の相棒で鏡写しの咎人だ。

「私にも背負わせてくれ」

間違い続けた私たちにはそのくらいがお似合いだ

「心詠……」

項垂れた私に桜井暁都の手が触れる。桜井若歌は冷たくなったのに、どうしようもなくあたたかい。

果たせなかった約束、そして、残された約束
『お兄ちゃんのこと、よろしくね』
ごめんね、今度こそ、守るから。