容姿・経歴・その他メモ

福丸天神は幸福に価値を見出さない。
生粋のソラリスである彼にとって、「幸福」とはあくまで「脳における伝達物質のやりとりの結果」でしかない。ゆえに彼は、他者を幸福に誘う能力を、金儲けに使うことに躊躇がない。
幸福になれる壺。福丸式開運セミナー。明晰夢サロン。幸福を求めて心の弱い人間はこぞって彼を頼った。

ドラゴンが彼の住んでいるまちを襲ったとき、彼はもはや助からないであろう人々の脳を弄って、幸福の中で眠らせてやっていた。意味も理由もなく、強いて言えばそれは彼なりの善意からだ。痛いよぅ、痛いよぅという子供の声や、目が潰れながらも必死に我が子を探す親の慟哭が聞くに堪えなかったからだ。

一人の尼僧が、倒れた木の下敷きになっていた。下半身は見るも無残な状態で、助からないのは明白だった。彼はこれまでしてきたのと同じように、その尼僧にも幸福の中で死なせてやろうとした。
しかし、尼僧はそれを拒否した。曰く、嘗て犯罪に手を染め、幾人も不幸にした罪を雪ぐために仏門に帰依したというのだ。これもまた運命、と尼僧は苦しそうに笑った。

彼は尼僧を愚かな女だと思ったが、同時に、今までの人生において初めて目にする価値観は、彼の深奥を揺さぶってもいた。なるほど。「幸福」が所詮「結果」でしかないのならば、「幸福に至る過程」にこそ、人生の神髄はあるのかもしれない。
だとするならば、その芽を摘む存在は、許しておくわけにもいくまい。

尼僧は苦しそうな顔で息絶えていた。
愚かな女だとはもう思えなかった。

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