成り上がりの権力の元に生まれ育った一人娘。
両親は社会的地位に見合った"血統"を手に入れるため、彼女を名家に嫁がせようとする。一歩下がって主人を引き立てる――そんな古い価値観によった教育を受けながら、幼少から縁談の成立と破棄を繰り返してきた。

許嫁について、幼い頃はコロコロ変わる遊び相手くらいにしか考えていなかった。
転機は思春期ただなかの高校生時代。相手は5歳年上で、自分より遥かに大人な彼に少女は心酔した。しかしその縁談は破棄。

失恋に泣き暮れた彼女は自分より程度の低い相手にしか興味を持てなくなる。
興味といえども、それは恋愛感情ではない。もはや自分の意思を介さず次々とあてがわれる婚約者はお人形だ。

少し甘い言葉をかけてやるだけでいい。それだけで操り人形が完成する。脆弱なお人形ほど時間はかからない。
彼女の言動に一喜一憂するお人形を見ていると、空っぽの心も満たされる――気がする。

父親の命令で高校生のときからUGNの一員として働いている。
他人の望みで技術を培ってきたため、サポートもアタックも中途半端な器用貧乏。一見投げやりな従者の使い方は、両親の優秀なお人形である彼女自身を体現しているともいえる。

主な仕事はジャームの討伐とそこに巻き込まれて死亡した一般人の蘇生。ただ抱きしめるだけの簡単なお仕事。

七光もその中で出会った存在である。
確か3～4人、いや5～6人くらい寝かされていた中の一人だった。仕立てのいい服を着ているなぁみたいなことは考えた気がする……多分、おそらくきっと。えっと、黒髪の人ですよね……ちがう？ あら、ごめんなさい。

現在の許嫁。世継ぎのことを考えると、三十路を迎える彼女にとって最後の婚約者だと父親から宣告されている。
容姿に見覚えがあったのでUGNの資料を調べてみると、過去の事件の被害者リストに名前があった。貴方は覚えていないだろう。

七光弐星は篭絡するにふさわしい逸材だ。
端から予防線を張ることで、傷付くのを防いでいる弱い人間――すぐ堕ちるにちがいない。

しかし、イギリスから帰国してから貴方は変わってしまった。
現実に向き合おうとする泥臭さも前向きな希望も貴方には似合わない。自分の無能さを悟って諦観に暮れていればいい。
それなのに、以前の貴方はどこに？

イギリスから帰った七光弐星は何やかんやあった。他人と一定距離を保とうとする癖を省みて、少しずつ歩み寄ろうとしている。コミュニケーション1年生。