『なんだ､私に話だと？いいだろう､今の私は気分がいい｡知りたいこと何でも教えてやろう』酷く酔っ払っているようだ｡
『なんで酒を飲むのか？そりゃ､酔っ払ったら楽しいからさ！』嘘を付け､お子様舌だろうお前｡苦い酒をそんな理由では飲めない筈だ｡
『…君に隠し事は出来ないね､イオリ｡そうだなぁ､複数理由があるのさ｡長くなるけど聞くのかい？』当然だ｡
『まず一つはただの弔いさ､イオリは私の両親が研究職だったのを知ってるだろう？』知っている｡彼等は優秀だった故に､あの事件で亡くなってしまったのが悲しいとRラボの研究員が愚痴っていたのを聞いたことがある｡…痛ましい事件だった｡
『…知ってるなら話は早いね｡その事件で私は両親に庇われたお陰で生き延びてしまった』子供想いのいい親じゃないか､とは思うが…まさか､違うのか？
『ああ違うとも｡私の誕生日を忙しいからなんて理由で一度も祝ったことないし､育児はベビーシッターや家政婦に任せきりだったし､その癖最期には呪いまで遺した連中だった』…深い事情には触れないでおこう｡
『話を変えようか｡後の二つは何だと思う？』…………俺には何も思いつかなかった｡一体何だ？
『残る二つのうちの一つは､任務に支障をきたさないためだな｡何､酒飲んでる方が支障をきたすと言いたいのか？』実際そうだと思う｡
『何だと､このバッドシティ育ちめ！…言い過ぎた､すまない｡まあ言うなら､皆が皆イオリみたいに強い存在ではないという話さ』別に気にしていないが…自分が強いとは思ったことがないな｡
『私にとって戦闘とは､とても恐ろしいものさ｡自分が傷付き死ぬかもしれない､任務そのものを達成出来ないかもしれない｡そんな迷いが数多のチルドレンを殺すのさ｡…皆､まともだから死んでいったの』…後で､あなたが所属してたホームの方向に手を合わせておこう｡
『イオリは実際の所戦闘中にそんな恐れなんて抱いていないだろう？というか何も考えてなさそうだよな､君』失礼だな､考える時は考えるぞ俺も…そうか､成程そういうことか｡”戦闘中に迷わない”ことを強いと言っているな？
『大正解！！イオリはやっぱ優秀だ｡そうだとも､皆恐怖を抱き迷ったからこそ死んでいった｡別に恐怖を抱くことは普通かもしれないが､戦闘中にそんなことをしていては精彩を欠き敵方の思う壺だ｡だからこそ､恐怖を与える側にならなくちゃいけないのさ』一種の自殺行為じみた戦い方も､裏を返せば相手方を恐怖させる一環となり得る｡俺としてはあなたが表彰されたのも必然に思えるな｡確かにそれは強い…ところで最後の一つは？
『よしやい､モデルチルドレン殿｡…最後は､秘密ってこと』気付けば､彼女に酔っている様子はもう見られない｡
『ある意味理想の体質さ｡ま､私はそろそろ任務開始だから行ってくるよ』いってら､生きて帰ってこいよ｡他のメンバーも心配している｡
『…荷が重いな､頑張って帰ってくるよ』そう言って彼女は去っていった｡残ったのは酒瓶と酒の匂いのみ｡
＿＿「これはあくまで推察だが､最後の一つは衝動の抑制なのではないかと思っている」
「彼女の衝動が人より重く苦しいものであるが故に､向き合いつつ離れる手段として酒を利用しているのではと思ったが…」
「証拠はない､そもそも人の内心など見る術もない｡…一生推察のままか」そう言って､彼も部屋を後にした｡

さて最後の一つは何か､あなたは何かわかりますか？

彼女の苗字「ヴァイオレット」は､彼女が昔聞かされた自身の苗字の聞き間違いで訛った偽物｡
本来の苗字は「ヴァーディハイト」であり､大戦の際現れたとされる英雄たる吸血鬼がさる女性と子を成して産まれたと言われる｡
さる吸血鬼は二度目の大戦が始まる直前に現れ終わる直前に姿を消したことから､夢幻であったのではないかとも言われている｡
だが､現実だ｡現代まで生き残った彼女という子孫がそれを立証している｡ある者曰く､血液型も全く同じである｡