血気盛んな性格とやや欠けた正義感から、若い頃はボディガードとして働いていた。
だが、次第に闘争のない日々を憂い始めてきた。そんな頃、行きつけのバーでにいた彼の下に一人の同年代の男性が現れた。
名を｜鳥居ヶ原《とりいがはら》｜龍之介《りゅうのすけ》曰く傭兵会社の者で、スカウトだった。

それから約30年の間、彼の人生は血染めの毎日となる。母は愛想を尽かし、元より親不孝者の彼は父とも疎遠になり、戦場と龍之介のみが繋がりと呼べた。
剣技が冴えていたわけでも、膂力がずば抜けているわけでも、弾撃ちが優れているわけでもなかった。
それでも、圧倒的な生存能力の龍之介と、常人離れした五感と思考速度を持つ獅子倉の前に敵はいなかった。

30年が経つまでは。

とある戦場で負った血しぶきは、親友であり相棒の鮮血だった。
敵を排除してその身を抱え去っても、既にその灯火は絶えていた。
実に満足そうなその顔がとても寂しく、それでいて腹立たしく――次の瞬間、獅子倉栄慈は覚醒した。


覚醒してからの傭兵生活はあまりにもつまらなかった。今までが茶番に思える力と、これからが乾いて見える環境に程なくして戦場から去った。
強い孤独感と気まぐれから、オーヴァードであることを明かした栄慈だったが、それが兆しのように程なくして父親は天寿を全うした。

だたっぴろい屋敷に一人、酒と煙管を浴びて気ままな生き方をしている時に三人のUGNエージェントから声がかかった。
初めは拒絶の意を示したが、短い間に見せられた正義と力に、三人へついて行く事を決断した。

紆余曲折あり、結成当日にはその中の一人が殉職した状態となる。
あからさまに沈んだ空気の『烏合』を見かねていた獅子倉栄慈の耳に、当時の相棒、鳥居ヶ原の娘の情報が届く。

オーヴァードであり、UGNに所属するその少女は支部からひどく浮いていて、それこそ『烏合』の言うはぐれものだった。
バーで声をかけた龍之介も同じ気持ちだったのだろうか、そう思いながら少女、鳥居ヶ原なず子を迎えることとなる。

「こういうのはつまらん、手早くいくぞ」
「｜儂《オレ》の因子は物体に定着させることが出来ん」
　そして、因子の存在する空間と因子が定着していないものを結び付けて操る」

「無と有で成り立つ万象操作が｜儂《オレ》の業だ。
　手の内を明かすようで、良い気がせんな」

追憶崩落
日輪没落
帰巣信仰