LOTOに保管されているデータベースには有能な指導者であると記録されており、経歴からしてもそれを裏付けているのだが…部屋で奇声を上げたり、課金癖が治らず散財しまくっていたり、得意な事が口でカップラーメンを作ることだったり(自称)とその中身が他人に対して奇抜な印象しか与えない為にメンバーからは変人だと思われている。

常にマスクにフードと言った格好な為その顔、正体はメンバーの中でもごく一部しか知らない。

彼(彼女)の持つ特異性。それは『Red Data』と呼ばれる能力により本来、高侵蝕状態(侵蝕率制限)や限定的なブリード(ピュアブリード)からしか観測出来なかったエフェクトを何ら制限なく使用できるという点である。また、オーヴァードが自身の理性を砕き、衝動を解放する事により使用出来るアージエフェクトすらもコントロールする事が可能なようだ。

私はかつて、平凡な学生だった。
蒼の幼馴染で、共に学生時代を過ごしていた。しかしある日、帰宅途中に大規模なバス事故に巻き込まれた。
死んだと思った君はオーヴァードに覚醒したことで生き残り、同じく覚醒した蒼と共にUGN：A市支部によって救助され、以降UGNイリーガルとして動くこととなる。

しかし数週間後、とある任務の途中、A市支部のデータベースから私たちは自分たちが巻き込まれた事件の真相を知ることとなる。

私たちが巻き込まれた事故は故意に行われたものだった。FHに裏切ったA市支部とFHのとある研究セルの合同で行われた作戦だったのだ。それは、多様なオーヴァードの力をぶつけ合い、その中で非オーヴァードがオーヴァードに覚醒することによって、特異なレネゲイドウィルスに感染したオーヴァードを生み出せるのではないかという仮説に基づく実験だった。

自分たちが「特異なオーヴァードを生み出すために無理やり覚醒させられたオーヴァード」であることを知った君たちは、しかしその事実を隠蔽しようと目論むA市支部にそれを察知され、濡れ衣を着せられてしまう。

曰く、非日常に身を置くことに耐え切れず、UGNを破滅させようとしたオーヴァードだと。
この世界の秩序を脅かす「裏切者（ダブルクロス）」であると。

私たちは死に物狂いでA市支部を抜け出し、廃ビルの冷たいコンクリートの壁に身を預けながら、そうして悟る。

もうどこにも行けないのだと。

日常には帰れない。
非日常にも身を置けない。

私の隣で、蒼が眉を下げて破顔する。大きな手が私の手を掴む。

「もうどこにも行けない俺たちの、居場所を作りたい」

私は蒼の願いに賛同し、LOTOを立ち上げた。

LOTOを立ち上げる為の準備期間。そして立ち上げてからも彼(彼女)の苦悩の日々は続いている。

使える物は何でも利用し基盤を作りあげ、必要な知識を片っ端から吸収した。

ただ一端の高校生でしか無かったにも関わらず、UGNを含めた組織に勘づかれる事がないように水面下で策を巡らせここまで来たのだ。

彼(彼女)には、一人で戦える力は無い。
身体能力も、戦闘技術も、抜きん出たものなど持っていない。脱出する際も蒼が居たからこそ成しえたこと。

だからこそ自分にやれることは全てやった。
レネゲイドや医術の知識を蓄え、自らの特異性を活かせる術を用意し、仲間を生かす為の戦術を学び、裏世界の住人達と交渉し資金源を調達し、居場所となれる場所を作った。

それでもまだ、足りない。

ここまで来るのに多くの仲間を失った。
LOTOの理念に賛同し協力してくれた多くの仲間を、自身の力が及ばなかったばかりに。

この組織には自分や蒼と同じように特異性を持ちながらも居場所を失った者達が集うが、それだけに他組織からも狙われやすい。

だからこそ、散っていった仲間の想いを継ぎ今の彼等と組織を守る。それがリーダーとしての責任と、"私"の覚悟の証明なのだから。

学生だった頃、近所に幼い女の子がいた。
彼女とはよく遊んでいた。家でも、公園でも、デパートやお互いの学校なんかでも。時には蒼も一緒に。

然し、事件が起き覚醒してからは暫く会うことはなかった。

あの子との再会は偶然だったのだろう。
支部から逃げ出し、『LOTO』を立ち上げるまでの短い間。様々な組織から逃げては隠れ、水面下で準備を進めていたある時にFHと遭遇戦が発生。蒼も力を使い果たし、私の眼前に迫る敵をなぎ倒して現れたのは...あの子だったのだ。

再会した時のあの子の...彼女の背中は、いつも後ろに付いてくるだけだった小さな背中ではなくなっていた。
彼女もあの時の事件に巻き込まれていたのだろうか。きっと私の考え付かないほどの重みを背負っているのだろう。

それでもと立ち上がり、勇気を振り絞り絶望を払う彼女の姿を、きっと私はいつまでも忘れない。