某日某所、普段は敷地を持て余すほど広々とした巨大なドームには、あるアーティストのライブを待ち望んでいた人々が集結していた。つい先日のツアーライブがキャンセルとなってしまっただけに、彼女『Apricot』が舞台へと上がる前からその熱気は凄まじいものとなっていた。
……照明が落ち、静寂が辺りを包み込む。そして、彼女のかき鳴らすエレキギターの一音目と共に、会場のボルテージは一瞬にして最高潮へと到達した。
彼女のワンマンショーは一切のボルテージを落とさず進行し、空気と弦の振動の共鳴が始まってから早くも一時間と三十分が経過していた。聴衆たちはそのテンションを保ったまま、いや、むしろその勢いを増しながら彼女の音楽へと喰らい付く。
最後の曲(もはや形式だけとなってしまっているが)を歌い終えると彼女は相棒のエレキギターを地面へと置き、マイクのみを片手に舞台裏へと戻っていってしまった。完全に暗転した会場に困惑と動揺が広がったものの、もはや様式美となったアンコールと共に──光が戻った。
次の瞬間、ステージに立つ二つの人影はマイクを手に新たな詞を紡ぎ始めた。一つは聴き慣れた、しかし聴き飽きることのない荒々しく繊細な歌声。もう一つは聴いたことのない、しかし何処か聞き覚えのある(エレキギターに似た)初々しく年季の入った歌声。一瞬の沈黙の後──その場に存在するすべての生命が、はち切れんばかりの歓声を上げた。

この日彼女たちの伝説は、『新たな始まり(New Beginning)』を迎えた。