生きるって何なんだろうな
人はよ、長い事掛けて産まれるってのに死ぬ時はほんの一瞬。こうして見ると俺達ってどうして産まれて来ちまったんだろうって、どうして今も生きているんだろうって思うんだ
昔の俺は純粋だったよ。姉さん達の後着いて回って一緒に木刀振ってさ、負けても次こそはって何度も修練に打ち込んだんだ
そして日に日に劣等感だけが降り積もって行く訳、どれだけやっても追いつけない。それどころか背中が遠くなって行くんだ。寝る間も惜しんで、飯も忘れて打ち込んでたある日に姉の1人に言われたんだ
『これ以上やっても意味はないから修練を辞めろ』ってさ。聞こえないふりをして続けてたら『私が勝ったらそんな事辞めて』と言われてよ。今なら勝てるかもと希望の縋って挑んだが完膚なきまでにボコボコにされちまった。心の端から端まで粉々になった気分だったよ
そして修練するのすら止められちまってた時に目を奪われたんだ。俺が今まで見てきた中で一番綺麗な子だったんだよ、その子
その日からは楽しくって楽しくって......世界に色が戻る、ってこんな感じなんだなって
ま、そんな日々も俺の力不足で終わっちまったんだけどな
嵐の吹き荒れる日の夜だったか、そいつが海に呑まれたんだ。無論それを知った途端身体は動いてたさ、姉さん達が止めるのも親父や母さんが止めるのも振り払って海に飛び込んで行ってよ
勿論奇跡なんて起きる筈もなくその子は死んだよ。海の神を祀る家な癖に海に人生を奪われちまったんだ。笑えるよな
そこからは死んだ日々の繰り返しさ、色は消え、ただ己の無力を嘆いて鍛えるだけさ
ま、肝心な俺は家にも帰らずこの事も忘れちまってるんだけどな。ただ鍛えてるだけよ
じゃあこの語りは誰だって？.....俺は俺さ。誰でもない空月(月代)秋斗(春樹)さ

元ストレンジャーズ所属。かつては十拳剣の称号を授かる程の腕を持つ隊員であったがある年を境に脱退、理由は定かでは無いが辞める際に歳が歳だから青春させてくれと言う旨を伝えた