容姿・経歴・その他メモ

僕は劣等生だ。

兄と比べられることが多かった。「お兄ちゃんはできるのに」「リクにお願いしようかな」だなんて、何をとっても優秀な兄は常に僕の前に居た。
不思議と兄を恨んではいなかった。目指すべき目標として、同い年ながら自分より優秀な兄を素直に尊敬していた。……今となっては何でそんなことを思っていたのはかは分からないけどね。
転機は僕が高校を卒業する日のこと。兄が突然姿をくらました。何を言い残すこともなく、忽然と。
当然、両親は強い焦りを見せた。”優秀な”兄がいなくなってしまったことに、”優秀でない”僕が残ってしまったことに。
そんなことなど露知らずだろう。数日後、行方不明のはずの兄から連絡がきた。「こっちの世界は素晴らしいよ」と。
送られてきた内容から、兄がどういう世界に飛び込んだのかは分かった。兄がその世界を素晴らしいと、そう言う理由も分かった。
でも分からなかった。どうして兄が一人で飛び込んでいってしまったのか。
――どこか、置いて行かれたような気がした。

その理由を問いただしたかった。どうして、なんで、って。でもこちらから連絡を送る手段はなかった。送られてくるメールは返信を受け付けない設定、電話番号は非通知、住所は不明、端末のハッキングを依頼しても捕まえられるのは偽の所在地だけ。

彼自身がどういうことを感じているかは分からない。兄と同じ境遇に飛び込んで、一定の地位を確保して、それでいても表に何かを表すことはなく彼はどこか嬉しそうに自己紹介をする。

「私の名前は黒瀬カイだよ。気軽にカイくんとでも呼んでくれると嬉しいね」


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彼が表向きに勤務しているのは街の一角にあるナイトカフェ。

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