経歴

元々はどこにでもいるヒーローに憧れる少年だった。
高校に入学してすぐに登校に利用していたバスでヴィランが起こしたバスジャック事件に巻き込まれた。
運転手が殺されすぐそばにいた女性が悲鳴をあげるとヴィランは躊躇うことなくその女性も撃ち殺した。
騒然としていた車内はヴィランの行動で静まりかえった。
満員の車内にいる人間が全て人質に取られた絶望的な状況だったが、一瞬で状況は変わった…バスが突然重力から解き放たれたかの様に浮かび上がり、動揺したヴィランの背後に1人のヒーローが一瞬で現れそのまま一撃を入れヴィランを車外へと叩き出した。
宙に浮くバスから見える光景は正にアクション映画のワンシーンで満員のバスがアトラクションの観客席に思える程だった。
あっと言う間にヴィランは撃退されバスジャックの被害者達は救助された、助けてくれたヒーローは最近頻繁に事件を解決していて人気急上昇中のスーパーヒーローだった。

後日…俺は偶然そのヒーローを人通りの少ない街外れで見掛けあの時の礼を言おうと彼を追いかけた。
曲がり角で彼の背中に声を掛けようとしたが、咄嗟にその声を圧し殺し身を隠した……彼の前には先日のバスジャック事件の犯人であるヴィランが居たからだ。

そして…ヒーローである筈の彼の手からヴィランに大金を渡すのを目撃してしまう。
彼らの会話で俺は全てを察した、つまりヴィランは元々このヒーローにやられる為にあの事件を起こしたのだ、ヒーローが実績と名声を得るために金で雇われ事件を起こしそれを解決させた。
だがそれだけなら……このヒーローに幻滅するだけで終わったかも知れない、けれど……
脳内に目の前で殺された運転手と女性の顔が浮かんだ。
こんな馬鹿げた出来レースの演出の為だけに2人も殺されたってのか…
(ふざけんな、ふざけんなよ！)
心の内から溢れた怒りは思わず口から出てしまった。
「ふざけるなよてめぇ!!」
ヒーローとヴィランの視線が俺へと向けられる。
オーヴァード相手に勝てる筈がない、しかも戦い慣れた2人だ。
数日前味わった人生最大の絶望を遥かに凌駕する絶望的な状況に立たされていたがそれでも目の前の屑共が許せなかった。
聞かれてはならない秘密を知った一般人を確実に殺す為にヒーローはエフェクトを使用しようと構える。

その瞬間、間に割り込む様に一陣の風が吹き抜けその場に1人の人物が現れる。
それが天雨 悠華だった、天雨は2人のオーヴァードの攻撃をいなしながら俺を抱えその場から逃げて見せた。

逃げ込んだ廃倉庫で俺は天雨に今後どうするか問われる。
この事を誰かに言った所で証拠が無ければ信じて貰うのは難しい、だがこのまま何もせず日常に戻ったとしてもあのヒーローは俺を探し殺すだろう。
それに…俺はもうヒーローを信じられない。
俺は天雨に力が欲しいと答えた、天雨は知り合いの闇医者を紹介してくれ俺はそこでオーヴァードになる処置を受けた。

清廉潔白の人間なんて居ないのと同じ様にヒーローにも清廉潔白なヒーローなんて存在しない。
あの屑の様なヒーローは稀だろう、だが調べれば大小関わらずヒーロー不正は確かに存在する。
それにレネゲイドという力を振るい戦いを楽しんでいるヒーローは数多くいる、それを表に出していないだけだ。
そういったヒーロー達の行動がヴィラン達を煽り犯罪が増え人々が傷ついている。
だから俺はヒーローから人々を守る為にヴィランになった、ヒーローはこの世界に不要だ。

現在

俺は天雨のヴィラングループに入り、ヒーローやその上に立つ政府高官達をターゲットに活動している。
俺がやっている事は悪だろう、だが善人面をして自分達こそ正義だとレネゲイドを振るい人々を傷つける悪人を裁けるのは同じ悪党の俺達だけだ。

活動を続け1年程経った、俺の耳にはバッドニュースが飛び込んで来た。
妹達がオーヴァードに覚醒しヴィランとなった兄を止める為にヒーローになったというのだ。
何とか穏便にヒーローを辞めさせられないかというのが現在の悩みだ、だがヴィラングループでも天雨がプランナーと接触しヒーローへの復讐を始めようとしていたりと何かと慌ただしくなってきた。

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