むかし、備中の国、今の岡山県の殿様が、立派なお宮を造ろうと思うて、国中の大工を集めたことがあった。
　たくさんの大工が集まって来たが、国一番のお宮を造れるような、腕のいい大工はおらんかった。
　ある日のこと、一人の人形師がお城にやって来た。殿様は、今までは、大勢弟子を連れて来る大工ばかりだったのに、たった一人で来るとは、不思議なやつだと思い、
　「お前、本当に一人でお宮を造れるのか」
と、問いただした。人形師が、

「必ず、立派なお宮を造ってごらんにいれましょう。そのかわり、お宮が出来るまでは、仕事場を絶対に見ないようにして下さい。」
というたので、殿様は、

　「面白い、たかが人形師一人でどこまでやれるか、やってみろ」
と命令をした。

　その日から、人形師は、カキーン、カキーンと仕事をしはじめた。人形師の仕事は一日経つと思わぬほど出来上がっている。
　(人形師ただ一人でやっているというのに、それはどうしたことだ)
　と、殿様は不思議に思うた。

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　ある晩のこと、殿様はこっそり人形師の仕事場をのぞきに行った。すると、どうだ。人形師一人のはずが、何十人も動物を模したからくりがいて、カキーン、カキーンと仕事をしている。それも、みんな違う顔、違う背格好のからくりだ。
「こ、これは、いったい、どういうわけだ。どれが本物のお前だか、見当もつかん」

　殿様は、一人のからくりを呼ぶと、
　「頭は、どいつだ」
と聞いてみた。すると、そのからくりは、
　「何やら埋もれて見えないでしょうが、あれが私らの頭です。」
と、教えてくれた。
「た、助け…」
声が聞こえたので、殿様は、からくりや資材に埋もれていた人形師を引っ張り出してやった。

　問題はありつつもお宮は、一日、一日、出来上がっていった。

　そうして、やがて、立派な、国一番のお宮が出来た。
　殿様は喜んで、喜んで、人形師を呼び、
　「見事な出来ばえじゃ。ほうびを与えよう」
というて、持てるだけの金銀を与えた。

　人形師が帰ろうとすると、
　「一寸待て、ところで、仲間のからくりたちはどうした」
と、殿様は聞いた。大工は、何も答えず、そのまま、立ち去ってしもうた。
　誰もいなくなった仕事場には、動物の姿形をした木の人形が、たくさん転がっていたそうな。
よおく見てみればそれはからくりでは無かった。

つまるところ、木の人形に魂を吹き込み、何十人という人手をこしらえて、かのお宮を造ったというわけさ。
　そんなことが出来るのは、日本広しといえども、たった一人しかおらん。そう、久重という人形師さ。

　むかしこっぷり杵のおれ。

しかしな、この話には続きがあるんだ。

この話を聞いたもう一人の悪い殿がおった。殿様はその人形師を探し出して城に呼び出した。
「人形師、お前は一日で日本一のお宮を作れると聞いた。わしにお宮を作ってくれれば、わしの財産を全てやってもよい。」

その話を聞いた人形師は、一目でその嘘を見抜き、
「あなたは信用が出来ません、ちゃんとした大工に頼む金も無いというのに、一体どうして財産を渡すと信じられましょう。」

すると、人形師は怒った殿に首を斬られてしまった。
だが、死体の袖から人形が二体も出てきて、人形師の死体を連れ去ってしもうた。


これは██地方に伝わるお話さ。どうにも諸説があってはっきりせんが、一つだけ分かるんは───

──その人形は、今も日本のどこかで彷徨い歩いておる事だけだ。