容姿・経歴・その他メモ

さる人形家の生涯最高の逸品。
初めての主人は、｜作り手《ちちおや》の一人息子。その子が生まれる前から、アンジュは主人を見守っていた。
二人目の主人は、成長したその子の唯一の娘。どんなにねだられてもアンジュを手放そうとしなかった彼は、死の間際に娘に彼女を託した。

遺品となった彼女は、大切に大切に、ガラスケースに仕舞われた。
誰かと一緒にお茶をすることも、誰かの柔らかい手に握られることもなくなった。

それから多くの人の手に渡った。
それから多くの人の生と死を見てきた。
それから、人形には心が宿った。

何百人目かの主人の元で、アンジュはレネゲイドという存在に出会った。
無機物に憑りついていくソレと隣り合った時、声が聞こえた。
『私に身体を譲ってくれれば、どこまでも歩いて行けるのに』
不躾な声だったけれど、何百年かぶりのおしゃべりはとても楽しかった。

ある日、男の怒鳴りあう声が聞こえた。
胸に穴の開いた主人が、狂気に満ちた瞳でガラスケースを抱く。ぶつぶつと聞こえるのはアンジュへの執着の言葉。
ガラスが割れて床に放り出されると、程なくして屋敷に火が放たれた。

自分の足が動くと気付いたのは、すっかり火の手が回ってから。
おぼつかない足取りで、それでも逃げなければいけないと思った。『死』を恐れる日が来るだなんて思ってもみなかった。

「さようなら、隣人さん。あなたとのおしゃべりはとっても楽しかったわ」

『すべてプラン通りです』

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