FH時代の部下には戻ってきてほしいと言われているが無視してる。でも友人として付き合うのはまんざらでもない。

それは雨の日だった。
人通りの少ない裏路地を傘をささずに歩く。髪が張り付いてうっとおしい。
低いうめき声に顔を上げると、女性が一人ビルの外壁に背中を預け、浅い呼吸でこちらを見ていた。
頭部は半分抉れており、血だまりに沈んでいる。普通の人間なら即死を免れない怪我だ。
「最後に見る顔が貴方だなんて、私もツイてないわね……」
「……」
低く、彼女のコードネームを呼ぶ。
幾度となく剣を交えてきたにも関わらず、彼女の本名は知らない。
「ライバルのよしみで、……聞いてくれ……。私には子供がいるんだ」
「また面倒ごとを」
「私に似てて強いのよ。FHでもうまくやっていけると思うんだけど、どう？」
死の淵にあることで、正常な思考ができていないのか、彼女はそう言って笑った。
「お前はそれでいいのか？」
「うん実は一度でいいからFHに入ってみたいと思ってた」
殺してちょうだい。まだ脳幹が生きてて死ねないの。
「あと、これ土産」
彼女はそう言って、煌めく立方体を差し出した。
立方体が何なのか尋ねようとする。しかし彼女の身体は変質しつつあった。
この場所でジャームの相手をするのはごめんだった。
「…………で、また……」
護身用の拳銃で半分失われていた頭部を完全に破壊する。

立方体をポケットに入れ、アジトへと帰る。
死人の話など聞いてやる必要はないのだ。