容姿・経歴・その他メモ

コードネーム：天債/ファインライン
オーヴァードになってイイことが何もない。
だから、ファンランを名乗っている。


目がとても悪い。普段は眼鏡をかけて、その上で細めて凝視している。
見るのを諦めた時、眼を見開く。見ることに拘らなくても、場所は分かるから。

人の記憶とはつまるところ電気信号だ。
強度が上がるほどに鮮明に思い出す。
しかし、思い出す、という行為は関連するものにただ反応しているだけに過ぎない。
もし、どの記憶も強固に脳に刻み付けられているのなら。
果たして正確に"目の前"を認識できるだろうか。


メモに書いて、それを見ておけば、どれほどの情報の濁流の中でも見失うことはない。
私の名前などどうでもいい。
ただ"今"にしがみつけていれば、それで。


■月■日■■■■■検査結果
患者名　■■■　■■

■月■日検診時の推計速度を超過している。
直ちに大脳新皮質の肥大部の切除が必要である。
視覚野、聴覚野への圧迫、またそれによる聴視覚能力の低下が既に認められている。
また脳閉塞発症リスクは深刻な域に達している。
原因としては問診票より視覚の酷使と推定される。
情報の取得と短期記憶を継続的に行った結果、海馬を中心として周縁部へ神経細胞が活性化されてしまい後頭葉、側頭葉への伸張が顕著。
前頭葉への侵出が比較的軽微な理由としてノイマンシンドロームの強固な精神力との関連が候補にある。
前頭葉へかかるはずの負担が側頭葉、後頭葉に押し付けられたと言える。
当該シンドロームが本症状の原因と思われる以上、完治の見込みは

オーヴァードが人へ戻るのと同程度だろう。


■月■日術後経過観察

明白な誤りを犯した。
オーヴァードの異常な再生力が頭部の空洞に新たに取得した情報を急速に詰め込んでいる。
私達は彼女の過去を切り取り現在を眩ましてしまった。


色褪せない海に溺れる中で、細く睨んだモノだけが。
私が掴める現実への糸なんだ。

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