「－－－！」
　「わっ、ちょ、カメラに入ってくんな！」
　何気なく構えたカメラの先、視界いっぱいに映り込むアイツ。
　被写体としては優秀だけど、何せ存在が騒がしくてバランスがとれない。外そうとしてもしつこく入ってくるのに、諦めてカメラを下ろす。
　「バイトの募集だって」
　掲示板が目に入った。貼られたポスターを見て、言い出したのはどっちだっけ。
　何かの治験を募集するバイトだった。一緒に行ってみるか、と揃って行ったバイトが、FHとかいう奴らの実験だったなんて、思うわけがなかった。

　「あっ、ぁあ゛、あああああ―――ッ！！」
　何かを打ち込まれた腕が痛い。目の奥が熱い、頭が痛い。体の中を何かにかき混ぜられているみたいな、自分が、壊されていくような。
　「なんだ、これ」
　視界が赤い。目の前で広がる惨状が、悲劇が、記憶に深く刻み込まれる。
　人間が玩具のように容易く壊されていく。そんな光景が延々と目の前で繰り広げられる。
　消えない光景。頭が痛い、押さえようと持ち上げた手に握られた拳銃が、いつから自分の手にあったのか分からない。

　（遊べばいい）

　あれは自分の玩具だ。腕を持ち上げ、引き金を引け。そうすればこの吐き気のような抱えたものも、綺麗さっぱり消えるんじゃないか。
　「－－－！」
　目の前にアイツがいた。頬が熱い、殴られたらしい。
　何だか珍しい顔をしている。いつもふざけて、楽しそうに笑ってるから、そんな顔もすることをすっかり忘れてた。
　「　　　」
　名前を呼ぶと、目が合う。腕を掴まれた、俺たちはここから逃げなくてはいけない。
　どうやって逃げる、何処に逃げる。ふと、アイツの掴んだ腕に握られたままの拳銃に気づいて、恐くなった。
　いらない、手放したい、すると拳銃は黒い砂に変わった。ぶわりと砂が舞う、それが自分で操れると感覚で理解できた。
　「－－－ッ！？」
　急にアイツが倒れた。なんで、どうして。
　倒れたところに膝をついて確かめる。息をしている、生きている。
　「なん、で」
　アイツの姿がみるみる変わっていく。確かに男だったのに、変わっていく。
　変化が止まらない、俺の知ってるアイツが変わっていく、消えてしまう。待って、どうしてこんなことに。
　「なるほど、君からその彼にも感染したのだね」
　声がして、見上げた先でカツカツと足音を立て歩み寄ってくる、研究者面した誰か。
　誰かは言った。覚醒した俺に共鳴して、アイツも覚醒したのだと。俺がこんな力に目覚めたから、アイツまで、目覚めてしまったのだと。
　アイツが変わっていくのは、俺のせいだ、と。
　「う、そだ……そんなの、うそだっ！！」
　こんなことなら、一緒に行こうなんて話、しなきゃよかったんだ。
　黒い砂が全てを覆い隠すように、視界を覆い尽くした。


　「―――ッ」
　誰かが呼んでる。聞き覚えのあるような、ないような。
　目を開けると、知らない女性が泣いていた。泣きながら名前を呼んでる、どことなく、アイツに似てると思った。
　生きてるか、死んでないか、訳の分からないことを聞く。確かに体は痛いけど、死んでるわけないのに。
　「だ、いじょうぶだから……泣くなよな、ぁ」
　手を伸ばす。その手が赤く染まっていたのに触れるのを躊躇うと、握り締められた。
　温かい、手だった。


　目が覚めると病院にいた。
　何があったのか、思い出そうとしているとUGNを名乗る人から説明されて、自分の身に何が起きたかを思い出す。
　どうやら、FHとかいう奴らから助けてくれたのがUGNという組織らしい。そして自分が普通の人間とは違う、オーヴァードという存在になったのだと、色々と教えられた。
　自分の記憶を辿る。途端、記憶を覆い尽くす赤い世界が脳裏に広がって消えなくて、それが恐ろしくて、目を逸らす。
　だけど、そうか。助かったのか―――アイツは、一緒にいたアイツは、無事なのか。
　「―――！！」
　直後、部屋に飛び込んできた女性がベッドに身を乗り出してくるのに、驚いて身を引いた。
　俺の名前を呼んでいる。誰だろう、俺を知ってるこの人は、アイツによく似ていると思った。
　「……　　　？」
　まさかと思いながら名前を呼ぶ。一瞬、固まってからぶんぶんと首を縦に振られた。
　肯定されて、困惑する。なんでアイツが女になってるんだ、意味が分からず訊ねると、女性のアイツは『いつものようにふざけて』言った。
　「あんなことやそんなことがあったっていうのに…どうして覚えてないの？！　ひどーい！」
　「いや、誤解を生む様な言い方をすんな！」
　全くアイツは女になっても変わらないんだから、ふざけて怒る姿に溜息を吐く。
　あんなことも何も、アイツが女になった理由なんて―――あれ？
　「……お前、何で女になってるんだ？」
　いやそもそも、何で、覚醒してるんだ。

　―――忘れてはいけないことを、忘れているような気がした。

　【とある忘れたこと】

カヴァー/ワークス：自由
推奨ロイス：結社　　推奨感情 P：好奇心/N：猜疑心
ある日、キミの元へ一つの依頼が舞い込む。それはほんの数か月前に人工衛星の打ち上げを終えた新進気鋭の結社からのものだった。そして依頼が来たということは彼らは知っているのだろう。キミが人ならざる力を持っているということを。

ハンドアウトPC②③ 　（共通）
ワークス/カヴァー：UGN関係者/指定なし
ロイス：”恋の通り魔”リビー&ルドー
推奨感情：P執着/N脅威
　キミたちはUGN所属、もしくはUGNに協力しているオーヴァードだ。
　人の恋心を弄ぶ危険なレネゲイドビーイング、”恋の通り魔“リビー&ルドーを追っていたが、あと一歩のところで逃げられてしまう。
　伊遠市で目撃された女性二人組の不審者の情報を得たキミたちは、リビー&ルドーである可能性が高いと考え、伊遠市支部へ向かった。

ロイス
家族　●慈愛/疎外感
S賢咲 幸光　●友情/食傷
×”恋の通り魔”リビー&ルドー　執着/●脅威
田中 太郎　●同情/憐憫
ハイネ　●連帯感/不信感
松戸 暮石・藤邑 梓　●信頼/脅威

184点　砂の盾　追加