某資産家の子息として生まれる。
家は医薬学関連の事業を携わっており、20年前レネゲイド拡散はじまる前から密かにレネゲイドの研究を行っていたとかなんとか。
大学卒業後家業を継ぐことになり研究施設で働くことになり、そこで出会った同じく研究者の女性と結婚。
当時施設で研究されているのは某太古生物の化石であり、そこから採取した細胞にレネゲイドウィルスが宿っていた。
しかし研究途中で事故が起こり、無自覚にレネゲイドに感染した研究員が暴走して傷害事件を起こし、最終的に“処分”されたが、彼の妻はその件で負傷してレネゲイドに感染し、命を落とした。
その時は妻が身籠ったのをわかって間もなかったことのゆえに、葬式を済ませて持ち直すまで長い時間をかかった。
けど当時知らなかったのは、腹の中にいる胎児はレネゲイドウィルスに適応したため、母体が死してなお子宮の中で生きていた。
数ヶ月後、母親の死骸を喰い破って産み落とされた子供は、そのまま死体の肉を食らって墓の中で生き続けていた。
異変に気付いたのは墓場の管理人が巡回していた時墓の中から赤ん坊の泣き声を聞こえ、関係者に連絡した時であった。
棺をこじ開ける彼の前に現れるのは、愛した妻の屍を貪る赤子の姿だった。
その後、子供を施設に連れ帰って検査した結果、完全に古生物の細胞に適合してしまい、いわば一種の“生ける遺産”に近い存在となってるのを判明した。
子供の存在を知った彼の父はレネゲイドの研究に執心していることからその子を貴重なサンプルとして引き受けることにする。彼はそのことを最初こそ反対していたが、墓所で見た衝撃的な光景から子供にどう接すべきかはわからず、結果的に黙許することになった。
それから数年、お互い接し方も、境遇から救い出す方法も知らないままふたりはすれ違う。
そして子供のレネゲイド性質があまりにも特殊なことから、研究所はその子を別の組織に引き渡すことを決めた。
そのことを察したのか、子供は彼に「僕は捨てられるの？」と問いかけるが、当時色んなことで失意のさなかにいる彼はうっかり、本音のひとつをこぼした。
――どうして、彼女ではなくて君が生き残ったのか、と。
その言葉が引き金となって子供は人間に絶望した。
のちに、研究所を壊滅させるほどの実験事故が起こり、彼はその一件で瀕死の重傷を負ったが、どういう因果かオーヴァードになったことで死地から蘇った。
そのあと紆余曲折を経ってUGNと接触を果たし、研究所を立ち直らせながらUGNに加えることになった。

いつも身につけている懐中時計は本来、妻が嫁いできた時持ち込んだもので、その時は正常に稼働していた。
"壊れた"のは彼がオーヴァードになったあとだが、その表現も正しくはない。
正確にいえば、この懐中時計自体は強烈な意志を宿る"遺産"に近しいものであり、レネゲイドクリスタルと同じ性質をもっている。
その力が正確に発揮されるとき、"アカシックレコード"と呼ばれる世界の記録にアクセスができ、そこからほんのわずかだが事象を思うままに書き換えることができる。
"壊れた"のは、彼の覚醒時の記憶と思いに応じて時間を“止まった”ままにしたからのである。
唯一、アカシックレコードと接続し、この遺産本来が持つ力を正しく発揮するその一瞬のみ、時計はわずかに動き出すことがある。