やのつく自由業の家に生まれた子供でした。

母となる女性は桜を産み落としてすぐに組から逃亡したようで、行方知らずとなっております。
長であった実父と厳つい組員たちによって、良くも悪くも強く叩き上げられ真っ直ぐに育てられました。
自分たちを束ねる王として、生き様を魅せてゆくものとして。
叩き上げられたそれは度々歪み、ただ真っ直ぐに見えるだけの何かになっていることなどは、誰も知らないまま。

そして学校へ通うようになった年の頃。実家で他組の襲撃を受け、刃と弾丸が飛び交った跡地にて。
血と煙に塗れた男達と父の遺体を前に、銃も刀も持たない手を滴る程の血に濡らし
ひとり無邪気に笑っていたところを「唯一の生存者」としてすくい上げられました。

以降は、多数の死者が出ている事件の生き残り…そんな御大層な肩書きに憐みや好奇の目を惹いたストレスからか、
病院や養護施設等で度重なる暴力事件を起こし、老若男女問わず、大人も子供も痛めつけては踏みつけにする子供へ。
蟻を踏み潰すように、民を蹂躙する王のように、それはとても楽しそうに笑っていることが多かったそうです。

何でもないような顔で気性が荒く、一度手足が出れば引っ込まない。
言語すらままならなくなり、優しさや気弱とは程遠い存在へと変貌する。

それが「緋神 桜」という子供の本性にして、大人達が作り上げた獣の姿。

中学へ上がってすぐの頃にはとうとう警察のお世話になってしまい、その当事者にして加害者として
未成年で名前は伏せられたものの、新聞の片隅に「中学生A」と己の行いを刻まれることとなりました。

手の付けられない凶暴な獣の牙と爪の”理由”に気付き、おさめてくれるひとに出会えたのは…その頃のことでしょう。
今はすっかり大人し気な少年の面を被り、本性を隠して生活をしております。


「人を殴るって、楽しいんですよ。特に自分より弱いやつ…痛みに泣き喚くところを蹴ったり…とか」
「嬲って、甚振って…とても楽しいんです。…だから…笑ってしまうんです」
「自分でも自分が止められなくなるんですよ。やらなきゃ、やらなきゃって…、」


「こんなやつら、いっそ殺してしまえって」


「……でも、二条さんに迷惑を掛けたくないから…」
「だから…普段は何も考えないようにしてる」


「悪人も息をする権利はあるみたいだし」