オーヴァードの力の多寡は血に関わらない。
だが、それでも純血にこだわる人間もいる。エンテンカ家は名家であり、まず以て何よりも純血を、次に家柄を重んじた。
彼らは純血から生じる驚異的なモルフェウスの力という架空の存在を信じ込み、自らの血脈を代償にブラッドスポーツに興じる一族であった。
力と富を持つモルフェウス同士を契らせ、より濃い血とより多くの財を求めることだけが彼らの目的であり、生きがいであり、寄る辺であった。

しかし、エンテンカ家の当代頭首には問題があった。彼は稀代の女好きであり――
――アルマはエンテンカ家の当主とモルフェウスの商売女を父母として生を授かった。
そして不貞という穢れた行為によって産み落とされた彼の血は、皮肉なことに――
――エンテンカ家の長い歴史の中で、最も全き力を持つモルフェウスの純血であった。
彼の生誕と、父親の不貞によって混ざりあった尊き純血を知ったエンテンカ家は、家の名に傷が付かぬようアルマと彼の母を密やかに殺害し、事故死とした。

だが、彼の人生はそこで終わらなかった。
不純物と忌み嫌われ、穢れた存在と揶揄された全き血は、命の危機に瀕して尚輝きを増し、そして――
――死はアルマ・エンテンカに終わりを与えず、血の目覚めを寄越した。
二度目の生に際し、彼は片目の視力と頭髪の色、親戚との縁故と実母の生命を失い、彼が持っていたのは二つだけであった。
穢れた純血による輝かしいまでの力と、失ったはずの変貌した命である。

UGNは凄惨極まりない事故の中で生き延びた子供の血と力に目を付け、保護育成の建前の元にアルマを正式にUGNチルドレンとした。
UGNの目的は定かではない。
だが、例え彼らがアルマの血と力を利用するつもりだったとしても、後ろ盾のある組織が年端も行かぬ年齢であったアルマをエンテンカ家から秘匿し、彼を育てあげたことは事実である。

UGNチルドレンとして4年間の実習、5年間の実践任務をこなし、日々を過ごすアルマの成長は著しく、特に感覚――射撃とRCの項目は目を見張るほどの成長ぶりであった。
また、アルマは精密かつ変幻自在なRC能力を有しており、この世の理や質量すらを無視した能力行使を可能としていた。最も得意としていたのは、『炭素』の精製である。
しかしながら、遠距離からの銃撃と能力の行使による敵の一方的な殲滅を得意とする彼は、その戦闘スタイルと同期の夥しい死から僅かな驕りを身に付け始めていた。
驕りは彼の肉体を貧弱なものとし、精神を軟弱なものとし、そして社会との繋がりを希薄化させた。

さて、実践任務の5年間の月日の中で彼と組んでいたのが、クエルポ・ペイバックである。
彼はバロールであり、重力操作を得意としていた。
アルマは最初クエルポに対して尊大な態度を取っていたが、長く彼と過ごすうちにその態度も軟化していき、彼を無二の相棒として認めるようになっていった。
彼らが得意としていたのは、二人の力を組みあわせることで炭素を圧縮し、『ダイヤモンド』を作成して任務に役立てることであった。
ダイヤモンドを利用しての作戦行動は非常に強力なものであり、彼らは各戦線で輝かしい功績を上げていった。
アルマの力が全盛を迎えるのもこの時である。

――だが、戦場で彼らに輝き尽きぬ鉱脈(シャイニング) 、宝石匠(アンビルセル) という二つ名が定着し始めてきたころ、クエルポは何の変哲もない死を迎えた。
戦場の摩擦によって生じたたった一つの流れ弾が、彼の脳髄を破壊した。
クエルポは、戦場で磨り潰されたのだ。

クエルポの死以後、アルマの精神には明確な変化があった。そして、精神の変化は彼の能力に明確な劣化を及ぼした。
アルマは相棒の死以降、自分の生命に対しての執着、そして他者への興味を失ったのである。
彼の精神は消耗し、消耗した精神は彼のRCを不完全なもの――原子番号6、元素記号C――『炭素』しか生み出せぬものに変えた。
十全の分解能力と、炭素のみの不完全な構成能力。
それが摩耗したアルマ・エンテンカの持ち得る唯一の力であった。

能力が劣化してから、彼は真正面からの敵との戦闘任務ではなく、機密文書の入手や敵の暗殺などの潜入を主とする任務を行うようになっていった。
アルマの持つ、触れたものを真っ黒い研磨屑に変える力。
そして障害物を無視して移動できるモルフェウスの力を買われてのことである。

輝かしいまでの才能を失い、汚れ仕事ばかりを請け負うようになり、何を分解したとて真っ黒い炭素しか生み出せぬようになったアルマのことを、同世代のチルドレンたちは黒金剛(カーボナード)という不名誉な二つ名で呼ぶようになった。
それでも、アルマは戦いを続けている。
彼が持っていたのは二つだけであった。
相棒をこの世から永遠に奪った闘争という不条理への憎しみと、不名誉な二つ名を背負った自己への強烈な嫌悪だけである。

対ジャーム特殊制圧部隊『AMPLIFIER』
通称：AMP（アンプ）

この部隊は、特定の地域に固執せず各地を放浪するタイプの凶悪なジャームを、現地のUGN支部と協力し撃破する事を目的として設立された部隊である。

■部隊の由来
各UGN支部を支援する事で、事件解決率が大幅に上昇する事を実証する為に、様々な場所から優秀なオーヴァードを集め設立された少数精鋭であり特定の地域に依存しない特殊部隊である。
基本的に部隊が単体で活動する事は無い為、部隊名は増幅回路を意味するアンプリファイアとなっている――