彼女は、ギルドを構成する下部組織に属する家に育てられた謎解きやパズルが好きな子供だった。

その性質からノイマンと推察され、そのための訓練の取り入れて育てられたが、ただ好んでいただけで特別な才があるわけでもなく、能力の発現も見られなかったために虐げられて生きてきた。
親からの虐待にも何の感情も示さない彼女を育ての親は「都合のいい子供」であると同時に「不気味なガキ」だと認識していた。

彼女が初めて感情らしいものの発露を見せたのは、彼女に懐いていた黒猫を親が蹴りつけた時のことだった。
親にとってそれはいつも子供にしていた「ストレス発散」の一環でしかなかった。
思い切り蹴り飛ばし、壁に叩きつけられ苦しそうに小さく鳴く猫にニヤけ笑いを浮かべて、いつもの彼女の仏頂面を拝もうと振り向いたとき。
部屋の明かりが落ちる。
ばちん、ばちんと周囲から何かが弾ける音と、強い光。

断続的に照らされる、怒りの色。

「──ブラック、ドッグだったのか、お前」

「あやまって」
「……ガキが、誰に口を」

ばちん。

「あやまって」
「おい、やめ」

ばちん。

「あやまって」
「くそ、」

ばちん。

……

「あやまって」
「す、すい゙まぜ、した」

床に倒れ込み、喉を震わす誰か。
目的を達し、興味を失ったそれを捨て置き、今も力なく鳴く猫に歩み寄る。

「だいじょうぶだよ」

優しく手を添え、電気信号と因子を送る。
次第に猫の生命の乱れは正され、落ち着いたように眠りに落ちる。

「おやすみ、ごめんね」

そして、床に転がり震えながら見上げるそれに向き直る。

「ああ……怒るって、こういう感じなんだぁ」

それが、17歳にしてようやく発露した、彼女の初めての感情。

あは、と乾いた笑みを漏らし。

目の前にいる、感情と能力の矛先に手をかざした。