生まれ落ちたのは忌み子だった。母の胎から取り上げられたその姿は獣が混じっていた。
山に囲まれた閉鎖的な集落で迫害され育った。物心つく頃には父も母もいなかった。ただ、この小さな村では山から降りてきた狼の子を孕むことが時折あるらしい。自分はそれだった。
呪われた子。近寄れば呪いが感染るのだそうだ。
この世のなにもかもが疎ましかった。この身に宿る獣の力を借りれば、全て終わりにできるのではないか。
そんなふうに思った頃、村にもう一人の忌み子が産まれた。仲間だ、と思った。なんとしてでも生きててほしくて、必死に育てた。
育てた子は女の子で、自分に懐く姿は妹のようだった。妹は心優しい子で、どんな仕打ちを受けても村の人間たちを許してあげていた。妹となら、この暗い世界でも生きていけると思った。
ある日、村に火災が起こった。真っ先に忌み子が疑われ、襲われた妹は息をしていなかった。
怒りで視界が真っ黒に染まった。心まで獣になった。なにもかも壊すーー、逃げ惑う人間に向かって手を振り下ろそうとして、それを受けたのは妹だった。
結局、火が全てを焼き尽くした。あの疎ましい世界はさっぱりなくなっていた。自分は妹の亡骸を抱えて、何も出来ずにいた。