彼女は、2年前で一度声をなくしたことがある。それはよくある、普通の事故だ。期待されすぎ、過大なストレスを無意識に背負いすぎた結界である。大好きな歌を一時期だけとはいえ、できなくなった彼女の心は一度折れかけた。歌も捨てようとすら考えたが、最終的にもう一度だけでも、大好きで止まない「この気持ち」を、ただただ歌を歌いたいという強い思いで覚醒したと同時に声を取り戻した。

――ああ、日の輝きなどは要らぬ。ならば海こそ我が世界
水底に流麗となる▛▜█になりたい
この仇敵に報復を、我を再生させる妄執と耽美の化身――深海の亡霊
波立て溺れよ――



彼女は運良く、「鬼の呪い」を限りなく0に近いまま生まれた。故にオーヴァードとして覚醒したとしても、普通のオーヴァードとさほど変わらないままいきることはできるはずだ。
ししか最近では何かしらの理由で彼女の身の「悪意」が増幅したせいか。「呪い」の断片が変異し、周囲にいる「呪い」と「加護」を無差別に吸収してしまった。
今の雫はまさしく「鬼」に無限に近い存在になっており、彼女の体はその器となったのだ。