春日　礼悟は、市内某所に探偵事務所を構える男性だ。探偵と言っても、推理小説に登場するような「頭脳を武器に犯人を追い詰める探偵」というわけではなく、街の便利屋という側面が強い。舞い込む依頼は身辺調査やペット探しが主である。

礼悟がオーヴァードであることを知る者からは、”ゴミ掃除”の依頼が舞い込むことも多い。この場合の”ゴミ”が人の形をしていることや、明るみに出ない悪事に手を染めていることは、公然の秘密である。

礼悟がFHに身を置いたのは、出生と同時だった。彼の生家である「春日」の家が、FHの大幹部、”プランナー”に仕える家系だったからである。

礼悟は幼いころから主である”プランナー”の力となるため、戦いの訓練を叩き込まれてきた。異能の力に目覚めるころには既に何名かの命を奪っており、命を奪うことも、捨てることも、ためらわないよう教育を施されてきた。

時を経て、”プランナー”の指示に従い生きる日々を続けていたが、それは唐突に終わりを迎えた。”プランナー”が春日一族の者にはなにも告げぬまま、FHを去ったというのだ。

”プランナー”がFHを去った後、残された春日一族は分裂した。FHに残り主の意志を継ぐという者、主亡きFHを見限りUGNに離反する者、かつての主が新興した人外の組織へ転身した者、徒に野へ下った者。かつての統率は失われ、個々の思いのままに行動を始めたのである。

その中でいえば、礼悟は「野へ下った者」に含まれる。礼悟は自身が”プランナー”に顧みられていないことを知り、そして、それでもなお「宗主様のために」と嘯く一族の者を見て、途端に「醒めて」しまったのである。

「あの方のためなら」と一族の者は口にする。だが、「あの方」のことを、どれだけ理解できていたというのか。ご大層な忠義を熱弁する者たちの行いに、何か意味があったというのか。それらの問いに、礼悟は首を横に振ることしかできないと思い至ってしまったのだ。

組織を離れて、市井で時を過ごすうちに、礼悟は自分がいかにモノを知らなかったのかを理解した。「あの方のために」と平然と奪い取っていた「命」に、価値があることを知ってしまったのである。

手に染み付いた血の匂いは、拭い去れるものではない。手にはなお、力が残されている。ならばこの手は、かつての己の様に暗愚な物から価値のあるモノを守るためにふるおう。