オーヴァードへなった。別れと出会いの出来事。
幸音が自殺し、癒えぬ悲しみの中、天津剣司はジャームとなった東仙迎幸に襲われる。
しかし、死ぬと同時にオーヴァードへと覚醒した。

世界が隠匿したレネゲイドウイルス。ＵＧＮ。ＦＨ。オーヴァード。
その逃れられぬ運命の中、さらに自身のもう一人の人格、プロメテウスとの邂逅。
仲間たちと共に幸音の死の真相。東仙迎幸の秘密。ブラックウィドウの襲撃が剣司へ押し寄せる。

そして、無事、俺たちは生き残った。
幸音は戻らない。迎幸は戻らない。
最愛の恋人との最後の約束を果たし、二度目の大切な人との別れを体験した。

事件を終え、後処理と天津とプロメテウスの関係を知り、これからの選択の答えを出す。

　　　　誰かの幸せのために生きて行こう。

自分の幸せがないわけじゃない。
ただ今回、多くの人に助けられた。なら、今度は俺が誰かの助ける番になっただけのことだ。


ある墓参りの帰り道。
天津剣司は電話を掛ける。

「お久しぶりです。凩さん。
その、折り入ってお願いがあるんですけど、ＵＧＮの仕事教えてくれませんか？」

「まだ、本格的に入ると決めたってわけじゃないんですけど、
俺みたいにオーヴァードになってしまった人の対処とか、これからの付き合い方とか。
そういう諸々のことを教えてくれそうな人が凩さんしかいないんで、また教えてほしいです」

「え？十文字さんと佐野さんに聞け、ですか？
いや、お二人ともそれぞれの仕事があると思って、全体の状況が分かっていると思う。凩さんから掛けました。
・・・ご迷惑でしたか？」

こうして、俺はＵＧＮのイリーガルとして進むことにした。
誰かの笑顔を救うために。

天津剣司の内に潜むもう一つの人格。
厳格で正しく、礼節。
表の人格である剣司を尊敬する。
戦闘用人格にしては、落ち着いた性格をしている。
実際はもう1人の自分というよりも、別の誰かのようだ。
Dロイス、『奇妙な隣人』に近い存在のようにも思える。

しかし、その正体は戦国時代の日本に降臨したレネゲイドビーイングだ。
古き天津の一族が【神おろしの儀】で自分の子供を人柱にして融合させた存在。
星に願いを、と誰もが星へ祈りを捧げるなか、傲岸不遜にも古き天津は願いを叶える魔法のランプを手に入れようと画策する。
それが【神おろしの儀】の正体。
純粋無垢で、高貴な血筋、神の声が近い場所。多くの接触要素をクリアし、宇宙からの授ける者（プレゼンター）と交信し、降臨させ、自分の子供と融合させる。
神を宿し、願いが叶う魔法のランプにさせることで、天津の繁栄を確立させるのが狙いだった。
結果は、成功し、致命的な失敗に終わった。

降臨したのが、邪悪を許さぬ正しさの化身、プロメテウスだからだ。
旧天津は神の降臨と共に滅ぼされた。残されたのは人柱にされた幼き天津だけ。

絶対正義の神、プロメテウスは、哀れな被害者で罪深い一族である天津の子供に伝える。
「おまえの救いの声を聞き、はせ参じた。故に問う。おまえは、俺に何を望む。天津の子よ」

「たすけて、ください」
「僕の、他に、囚われた、子供たちを、救ってください」

プロメテウスは困惑した。
一族を滅ぼした自分への怒りや、憎しみが来ると思った。
賢しければ、許しを請い。命の延命を願うはずだと、思った。
なのに、

「己の命でなく、他者の救済を望むのか」

「僕の、一族のせいで、家族から、離れ離れになった子供が、大勢いる」
弱弱しく、涙を流しながら。
「僕の命で、償えるなら、救ってください。神様、、、」

困惑が納得へ変わる。
己が降臨できたのは、儀式のせいではなかった。
この幼子は、己と同じ。誰かを救うべき存在なのだ。

故に、降臨と融合ができたのだ。
ならば―――。

「その願いは履行できん。故に提案だ、天津の少年よ。
我ら二人で共に、彼らを救う。できるか―――」

「―――ッ！。やります！この身尽きるまで、あなたと共にっ！」

「是非もなし。共に行こう尊敬する人間よ。誰かの涙を明日の笑顔に変えるがために」

こうして、天津は新生し、一族全てにプロメテウスの因子が継承される。
そう、―――。
彼は星を授ける者。
彼は焔を与える者。
彼は救う心を継承するもの。

スフィア・プレゼンター。
分け与える。強さと優しさを兼ね備えた献身の焔なのだ。