幼少期の夢

あのころの話だ。
昔も昔。ガキの頃。
祖父に当たるおじさんが、一本の剣を持ってきた。
煌めく大きな剣だが、子供でも持てそうなくらい。

「おう千華滝のガキ！こっち来なっ！」

近づいてみれば、その剣をかっこよく振り回してくれた。
キラキラと光り輝いて、表情はこわばり、いかつくもかっこいい。
息切れなんて感じさせないその動きに、少年心がくすぐられまくった。

「お前、この剣･･････使ってみてぇか？」

グサリと、地面に突き刺し、俺を見下ろしてくる。

《当たり前だろ！》

引き抜こうと、手に取った瞬間力が呼び起され手が弾かれる。

「どうだ？持てなかったろ？この剣は人を選ぶんだ。すげぇ剣だからな！」

手の弾かれる感触が、指に残る。
びりびりと、しびれるような感覚。
なぜだろう？不思議と嫌われている感じはしなかった

自身満々にそう宣言するおじさんに、俺は不思議に思ったことを聞いた。

「あー、お前さんは特別なんだ。異世界の因子例ってたまにあるからな」

よくわからない。剣に認められていないのに、剣からの意志を知れたのに
なぜこの｜剣《ツルギ》は俺を拒んだんだろう？


あの時だけ、年不相応の思考が廻ったのを覚えている。
多分、あの時からだったんだろう。
力に感染したのは

まだ見ぬ憧憬

「お前も、若頭か。デカくなったな」

《･･････うっす、オジキ》

盃にいっぱいの｜水《さけ》が酌まれる。

「お前とこうして、本家で飲めるのを楽しみにしてたんだ。硬くなんじゃねぇよ」

そうは言うが、若頭になって5カ月だ。無理もないだろ
ここのところの値は上々であり、本家からもお眼鏡にかなっていると褒めていただいた。

「･･････なぁ、憧自。お前は表で生きてくことだってできたはずだ。
　どうして裏なんか来た？ろくでもない仕事なのは、一番知ってるだろ」

《オジキの背中を、未だに追ってるから･･････です》

いつの日か見たあの悲劇憧憬が、忘れられないから。
オジキに憧れ泣きついたあの日を忘れられないから。

「つまらない幻想は捨てろ。お前ならもう持ってるはずだ。
　その未来を掴む力も｜組織《土台》も」

「てめぇらまとめてかかってこいクソジャーム共！
　他の組の輩もだ！俺の倅に手出すんなら、死ぬ気で来いやぁ！」

血まみれになりながら、俺を庇い、どす黒い光を散らす剣で殺していたオジキ。
《なぜそうされなくてはいけないのか》
《彼の背負ったものはこんなものだったのか》
《なぜそうしてまで俺を守るのか》
血まみれに染まりながら脳裏によぎるモノ。

だから、その時に、腕を伸ばしたんだ。

《あの光景、一生忘れてない。恩返しでもない。償いでも、恨みでもない》

だから、自分で｜行って《言って》みたかった。

お前の背中を追いに来たんだ