水花の両親は交通事故で死亡した。

当時、母は水花を身籠っており出産予定日も近かった。
ある雨の日の朝、陣痛を訴えた母を車に乗せ父は急いで病院へと向かっていた。
逸る気持ちを抑え切れず、早朝で交通量が少ないこともあり、法定速度を超えたスピードで走行していた。
交差点を直進する時、左右の確認を怠ってしまい、左からやってくる飲酒運転の車に気が付かなかった。
飲酒運転の車は急ブレーキを踏むも既に遅く、両親の乗る車の左側面に衝突した。

衝突した車の運転手は即死。父は運転席、母は右後部座席に座っていたため重体に陥りはしたが即死は免れた。
しかし、衝突の勢いで横転した車から怪我人の二人が脱出することはほぼ不可能。早朝で目撃者もおらず、救急車が到着するまで時間を要したという。

両親は最期の力を振り絞って神に祈った。
どうかお腹の子供だけは助けてください、と。
その祈りが届いたのか、或いは、ただの気まぐれか。
水花は死ぬことはなかった。母の胎内でオーヴァードに覚醒することによって。
覚醒時に生じたワーディングによって衝突音を聞きつけた近隣住民は気絶してしまい、これが結果的に救急車の到着を大幅に遅らせてしまう。

救助は間に合わず両親は死亡し、ワーディングを感知したＵＧＮによって母の遺体から水花は取り上げられた。

ＵＧＮチルドレン教育施設“ホーム”で育てられた。
2年前にＮ市にやってくるまで外の世界を知らずに育った。
ホームに居た頃は「外の世界」への憧れは少なからずあった。しかし、実際に“それ”を目の当たりにしたときに感じたのはどうしようもない疎外感だった。
だが、その疎外感が自分の“日常”はここではないと教えてくれた。
それ故に憧れに諦めをつけることができた。

ＵＧＮに保護された水花はチルドレン教育施設“ホーム”に預けられた。
誕生時からオーヴァードに覚醒していた水花は幼い頃からレネゲイドコントロールの訓練を受けていた。
しかし、結果は芳しくなかった。身体能力はオーヴァードとしては平均以下、シンドロームは判明すらしていなかった。

そんな水花に与えられた唯一の才能は「武器を操る」ことだった。
刀剣類から長柄の白兵武器、銃火器や弓、投擲武器に至るまでありとあらゆる武器を使いこなすことができた。
それ故、当時は身体能力の低さも加味してノイマンシンドロームの純血種(ピュアブリード)なのではないかと考えられていた。
しかし、訓練を重ねることでその予想も覆される。武器を影に収納する能力、射撃した銃弾を操作する等、三種混合種(トライブリード)でも説明がつかないような能力を発揮する。

不可解な能力のせいで水花は特に自由を制限されていた。
しかし水花本人は別段不満を抱くようなことはなかった。大人の言うことは聞いておいた方が楽だから。

影を操ることで、その影を落としている物体そのものを操る能力。影の大きさや濃淡を調整することで三次元的な操作も可能。
ただし、自身以外の生物とそれが触れている物体の影は操作できない。また元の物体の形状を歪めるようなことはできない。

自らの影を操作することで肉体を思い通りに操ることができる。元の身体能力が低い水花が白兵戦闘で相手に遅れをとらないのはこの能力があるから。

射撃した弾丸の影を操作することで狙った対象への命中率を高める。ただし、高速で動く物体の影を操作することは極めて難しく、自らが放った物体しか操作することはできない。

自らの影に物体を収納する能力。収納した物は任意のタイミングで出し入れできる。
仕舞うのは自分の影でなければならないが、出すのは200m以内に存在する影ならばどこからでもできる。

千にも及ぶ武器を収納しており、戦闘の都度、最適な武器を取り出して戦闘する。

名前はホームで仲の良かったチルドレンに付けてもらった。
由来は「水端(みずはな)」という言葉から。「物事の最初。出はじめ。はじまり。」という意味。
ただ、このままでは味気ないと「端」を「花」に変えて、「水花(すいか)」と名付けられた。