元官僚の現UGN支部長。ピアニストと自称するも、稼ぎはほぼ無し。くたびれおじさん。眉間のしわと隈、疲れ切った背中。楽しみはピアノとビール。そんな普通のおじさん。
空気振動による音楽で味方を支援する。
下手なピアノを弾く一方、エフェクトで奏でる音楽は一級品の旋律。しかし彼はこのことが気に食わず、エフェクトの使用を渋りがち。

20年前に仕事で訪れた中東でレネゲイドウィルス拡散に巻き込まれる。その時は何もなく、変わりゆく世界で変わらぬ仕事をしていた。各地を飛び回り、関係者たちと調整を繰り返し、上からの無茶な命令に引きずり回される。それでもある程度は上手くできていた。仕事の上で知り合いが増えもした。愛想が悪く上司や同僚には気に入られなかったが、丁寧な仕事だと相手先には評判で、時折飲みに行ったりもしていた。

そんな彼の唯一の楽しみがピアノだった。子供の時に聞いたピアノの演奏に胸を打たれて始めたものの、いつまで経っても上達しないものではあったが、彼にとっては数少ない癒しだった。暇なときには行きつけの店に置いてあるピアノを弾いてみたりもした。あの時に聴いた演奏をしてみたい。そう焦った時期もあったが、今となっては諦めて趣味と割り切ってはいた。それでも、今までに積み上げた何かはあるだろうと思っていた。

5年前のその日もいつものように店のピアノを弾いていた時だった。客の1人である飲んだくれの品のなさそうな若者が野次を飛ばしてきた。いらだちを覚えながらも事を荒立てるのは良くないと自制をしていたが、その若者は完全に酔っているらしく、必要以上に絡んできた。挙句、彼を突き飛ばしてピアノの前に座った。それでも彼は冷静だった。そういう日もある。若いやつの暴走だろう。まともな曲なんて弾けるわけがない。そう軽く考えていた彼の頭を、若者の演奏が強烈に殴っていった。歩くことすらままならない千鳥足の男の演奏は、彼よりも上手かった。周囲の人間の反応も自分の時よりもいい。なんだこれは。いつもは白けた眼で見るだけじゃないか。それなら、私の今までの頑張りは何だったんだ。どんどんと思考は危険な方向に進んでいき、若者が演奏を終えた後も彼は立ち尽くしていた。身体の中でなにかが蠢く感覚、頭を支配する強い渇望、心に湧き上がる自分と世界の否定。それが極限に達し爆発しそうなところで誰かに肩をたたかれた。ふっと湧き上がった感情が落ちていくのを感じた。その声をかけてきた人がUGNの職員だった。たまたまその日そこにいた職員が異常を感じ、ジャームとなる一線を越えるのを止めてくれた。その後、彼は職員とともに店を後にした。

オーヴァードへと覚醒をしてしまった彼は、病気で入院するという名目で職場を休むことになった。その期間でUGNから検査を受け続け、起源種であるとわかるとさらに長い間拘束された。そうして半年も仕事に行かなかった彼に居場所はなかった。突然の電話で解雇が決定したとだけ告げられ、彼は仕事を失った。途方に暮れる彼にUGNは、その能力と人脈を活かしてうちで働いてくれと勧誘をした。同時に、ここ以外で働ける状況ではないと脅しもしたが。彼はそれに従うしかないと諦観しながら、UGN職員へとなった。

その後はごく普通に仕事をし、身体能力の衰えを考慮してデスクワーク中心の生活となり、そこでの仕事ぶりを評価されて今の支部長という立ち位置に落ち着いた。

・"菫の幻想" 萬珠(まんじゅ)　律霞(りつか)

虛閑をジャーム化から救った人物。20〜30代男性。爽やかスマイルのいい男。
虚閑をUGNに引き入れ、エフェクトや衝動抑制の訓練に付き合い、事務職への転身を取り計らい、支部長へ推薦したのも彼。
彼に対して虚閑は、仕事ができる上にコミュ力もあるパーフェクト人間として手本にしている。一方で、自分の素性を明かそうとしない彼に心のどこかで不満を抱いている。

・KIRITANI

めっちゃ上のお偉いさん。仕事大変そうだなー、でも頑張ってるなー、力になりたいなーとは思うものの、この組織体系でUGNの掲げる「オーヴァードと非オーヴァードとの共生」はできるのか？と疑ってはいる