実は両親と教育係しか知らないことだが、彼には兄がいるはずだった。
流産となった1歳違いの兄が生きていれば、彼は次期当主になることも、「操」の名前を付けられることもなかった。
次男坊として、跡継ぎにはなれないが自由に生きる選択肢はもうどこにもない。

「俺は蜂須賀操。ここの支部を任されている」
「蜂須賀家は武家の出だが、今は皆、方々に散って各々の研究で生計を立てている」
「財閥やらになった家とは違うからな、想像するような豪奢な旧家ではないぞ」
※それでも多忙な両親に代わって運転手と家政婦と家庭教師（教育係）がいる。両親はそれぞれ秘書つき
「コードネームか。どうせ遅かれ早かれ、蜂須賀の者だと分かるから不要だろう」
「本名は不可？　ならば“錬金術師”でいいだろう。間違ってはいない」
「家柄だけで俺がのうのうと生きてきたと思われるのは心外だな」
「戦況は？　まずは被害状況の確認を、それから…」
「逃がすか」
「そんな銃あり得ない、だと？　これは俺特製だ。後は当たれば分かる」
「分かりやすいだろう。2つあればその分、手数が増え、ダメージ量が大きくなる。それだけのことだ」
「この力と共に生きてきた。俺にとっての日常は、この力と共にある」
「当主以外の人生は考えられない。だからこそ、その地位に相応しい者であるようにしてきた」
「支部長という今の立場も、実績に伴うものだ。学業との両立くらいこなしてみせよう」
「大学は指定校推薦を取るつもりだ。受験生兼支部長は、さすがに多忙だろう」
「学業にノイマンの力を使うつもりはない。下駄を履かずとも内申は事足りる」