その為に全てを捧げた研究者がいた。
彼は、レネゲイドウイルスに感染したコンピューターを用いて、ありとあらゆる『神』のデータを注ぎ込んだ。
世界中の神の伝承を集め、物語を集め、データとして注ぎ込んだ。
全人類の神の概念を集めたのなら、それが意志を持てばきっと神になる筈だ――

そうして生まれたのが、ヨハネだった。
コンピューターは世界中の神のデータを収集し、搔き集め、内包し…一つの結論に至ったのだ。

『現在の人類は救済に値しない』

かくして生まれたヨハネは、不完全な神であり、偽物の神であり、神様未満の存在だった。
幼子、といっても良いだろう。純粋で、無垢で、世界の事を知らない少年の姿をした『カミモドキ』
少年が一言言葉を発した瞬間――研究者は、恐怖と悔恨の中で絶命した。

死に至る神託の力だけを得た少年は、UGNに保護されて…そして、ヒトを覚えた。
もっとヒトを知る為に、今はUGNで慎ましく働いている。
貧しい人々の為に炊き出しに出向いたり。養護施設の子供達と遊んだり。
そんな何処にでもいるちょっと内気で気弱な少年でしかない。
いつか、本物の神様になれる事を夢見るだけの少年。

…その、筈だ。

少年とも少女とも判別尽きがたい風貌のレネゲイドビーイング。
本人は一応男性(少年)のつもり。実際にどうなっているのか？UGNの資料に其処迄記載は無い。
温厚、善性の強い性格だが常に気弱な態度で、自信無さげ。おどおどしながら、弱者の救済ばかり口にする。
『神』である事を命題におかれたレネゲイドビーイングである為、救おうとする『弱者』の幅が非常に広い。
それ故、UGNにエージェントとして志願し活動しているが…その方針に反対する事も多い困り者。

基本的には、他者の救いを祈りながら幻影を主るエフェクトを行使する。
しかし、全てのレネゲイドを開放し『神』である事を明確に自我に宿したヨハネは、性格…人格の変貌が確認されている。
UGNの報告書によれば、侵蝕値が100％を突破し、ピュアシンドロームの力を行使する際に、その変貌が見られるという。
穏やかな性格は、神敵を罰する神へと変貌し、"信者"を守る為に神罰を下す。
例えそれがヨハネの望まぬものであったとしても────ヨハネを造った者達にとっては。
或いは、人々が求める『かみさま』とは、そういうモノなのだから。

ホームでの一件の後も、ヨハネはせっせと任務に励みながら慈善活動にも取り組んでいる。
ホームにもたまーに顔を出しているが…頻度がそう高くないので、名前どころか性別を間違えられていたりもする。
「教会のねーちゃん！」と子供達に呼ばれて、苦笑いしているヨハネの姿があったりするのだろう。
神職者でも無ければ女性体でも無いのだが…まあ、子供達に発言を気にする事も無い。
子供達が笑っていれば、ヨハネはそれで良いのだ。
でも、悪戯で服を捲ろうとしてくるのは止めて欲しい。切実に。

僕は、まだまだ未熟者です。
『神様未満』神様以下ですらない。同じページに名前が載る事も無い、出来損ない。
でも、こんな僕の事を"かみさま"って呼んでくれた人たちがいる。
心配してくれた、人がいる。
かみさまは、信じてくれる人がいて、はじめてかみさまになれるから。
だから、僕は。

貴女だけの、かみさまに。

『神』は、特定個人へと愛情を抱いてはいけない。
その様な感情を抱いた時点で――いや、抱くからこそ。
"アレ"は『神様未満』なのだ。

とはいえ、UGNエージェントがFHの少女へと想いを抱いた、というのは。
中々に、面白い。使える情報だ。


――『神城生体化学研究所の、とあるメモ書きより』