昔、時人にはたくさんの兄弟がいた。父は彼が物心つく前に事故で亡くなり、母はたくさんの子供を育てるために仕事に出ていることが多く、長男である時人にとって年の離れた兄弟の世話は当たり前だった。彼は弟や妹が大好きであったし、彼らもまた彼のことが大好きだった。ある日のこと、1人の妹がオーヴァードとして覚醒してしまい妹がFHの人間に連れ去られてしまいそうになる。時人は愛する家族を守るため無我夢中で抵抗した。妹を諦めきれなかったFHは、彼の家族を徹底排除するために自身らの持つエフェクトを使用した。燃え盛る家、泣き叫ぶ弟達と動かなくなった妹達。
…自分が何とかしなくては。守らなければ。
　今にでも愛する妹が連れ去られてしまいそうな状況で、彼は静かに、しかし激しく怒った。その怒りに呼ばれたかのように、彼にも人知を超えた力が宿ったのだ。
　時人が次に目が覚めたのはとある病室だった。彼は何も覚えておらず、また人を超えた力を持った代償に彼の世界から色が消えてしまった。運び込まれた病院は幸運にもUGN直属の病院で、自身がオーヴァードになっていることを知り、施設で力の使い方を学ぶ。その合間に色と記憶を戻す治療を何度も受けたが両方とも全くと言っていいほど戻らなかった。自身の名前は辛うじて「より」が付いていたことを思い出すことができたが、家族構成など自分に関わる人間関係や生活サイクルなどは思い出すことができなかった。（弟や妹からはより兄ちゃんと呼ばれていたので「より」だけ覚えていたのだ。）客観的に見れば絶望と形容できる自身の境遇を哀れに思う人間は多くおり、時人はそれにうんざりしていた。しかし、自身をその様な目で決して見ない人物がいた。その人物はローザ・バスカヴィル。彼女は人を使えるかどうかで見ており、時人のことを哀れな目で見ず実力だけで評価していた。時人にとってそれは新鮮なことでありがたく思っていた。しかし、ローザを見ているとなぜか懐かしい気持ちが湧き上がってくる。それが何なのかは分からなかった。
　やがてエフェクトが満足に制御できるようになった時人は、彼女から「黄昏」というコードネームを付けてもらう。その時彼女から言われたことがあった。曰く、「あなたにはきっと分からないでしょうが、このコードネームには深い意味があります。この名に恥じない成果を上げるように。」と。よく分からなかったが、このことは誰にも話さない方がいいと思った時人は、その日から「黄昏」と名乗る。

「…楽しかった。いろいろあったけど。」
「ティターニア、とも、会えたし、ヤエとも、仲良くできたし。」
「……」
「ハル、とも、仲良くできた。…今頃、どうしているんだろう。」