…好きな子ができた。教団の新入りで自分が『天使様』なのを知らない、唯一の友達だった。バレないようにした。知られた時、向けられる目が怖かった。
破綻は突然訪れた。ある日呼び出され行ってみれば、目を真っ赤にしたあの子がいた。彼女は言った。「お別れしなくちゃいけないの」と。続ける言葉さえ聞こえなくなるほど、俺は思考に苛まれた。
何故。どうして。何で。彼女がいなくなる、そんな事を考えるだけで怖くてたまらなくなる。拠り所を失ってただ嬲られ慰みものにされる日々に戻る。怖い。耐えられない。いなくならないで。こんな事なら知らなければ良かった。思考は加速し、飛躍し、歪曲する。そして、壊れた回答を弾き出した。

─そうして、俺は、初めて。

…彼女を自分の世話係に指名した。彼女の両親に逃げるのは無理だと説得した。反対する者は黙らせた。熱を帯びた瞳で甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれる彼女を撫でて、こう思う。
堕として繋ぎ止めれば、ずっと自分の傍にいてくれる。
己の欲望であり、罪の記憶。あの子はどうしているだろうか。消した記憶が｜戻らない《戻る》事を、願っている。どうか、健やかに過ごしていますように。