戦時中、神社に通い詰め、そこにいる少女(神さま)と毎日話していた。
神社が空襲で燃え落ちたとき、少女を心配して駆けつけて、燃えた柱の下敷きになって死にかけたが、
御神体が完全に燃え尽きる直前に、少女の力を受け取って覚醒する(《古代種》)
闇市で進駐軍から仕入れた物を売って金を稼ぎ(《ドクタードリトル》《ブラックマーケット》)、
会社を立てて社長になった。
その途中で出来た商売の仲間を支援して議員にした(コネ:要人への貸し)。

古代種の力による実年齢との乖離を誤魔化すのが難しくなると、社長を"引退"させ、
そのかつての仲間に戸籍を手配してもらった、自分の"娘"に会社を継がせている。
今は5代目……だが、経営方針だけ決め、実務は専務に任せている。

それによって空いた時間で世界を旅して回っている。

戦時中、同年代の若者たちが戦地へ労働へとかり出される中、退屈になった私は、神社に足を運んでいた。
戦争に勝つことを祈るわけでもなく、未来のことを祈るでもなく、ただなんとなくその場所が気に入っていた。
ある時から、少女に会うようになった。真っ白い美しい髪の、赤い瞳の少女だ。
彼女とは他愛のない話をした。がらんとした学校のことも、ラジオから流れる戦況の話も忘れられた。
私が家に帰る時には決まって、彼女は「私に会ったことは秘密だよ」と言った。

ある日、神社に爆弾が落ちた。
私はあの子が心配で、家を飛び出して神社に駆け付けた。
焼け落ちる神社の前で呆然としていたのが良くなかった。私の上に、燃え落ちた柱が倒れて来た。

……燃える柱の下で、それでもあの子の名前を、呼ぼうとした。息ももう吸えなかった。
背中の熱さも曖昧になった頃、唐突にあの子が現れた。
「どうして、来ちゃったの。私はそんなに立派な■さまじゃないのに」
――。
「そう。本当に私のこと、友達だと思っていたのか」
――。
「ねえ、依り代のなくなった私はもう■■■しまうけれど、貴方は生きたい？」
――。
「わかった。……こんな方法でしか助けられなくてごめんね。それと……飽きたら、やめてもいいから」
――！

朝、私は神社だった所に倒れていたらしい。
あちこち燃え落ちた服。煤のついた顔。焦げた髪。そして、傷も火傷もない肌。
親戚も他の大人も、不思議を通り越して怪物でも見るかのような顔で私を見ていた。
私だけが、あの子がくれた贈り物のおかげだとわかっていた。

戦争が終わり、戦後の混乱の中、私は進駐軍相手に"敵国語"で商談をした(《ドクタードリトル》)。
闇市で稼ぐのに都合がよかったからだ。商売は驚くほど上手く行った(《ブラックマーケット》)
稼ぎすぎて目をつけられたとしても、誰も私を傷つけることはできなかった(《ワーディング》、《竜鱗》)

順調に資金を増やし、男性のふりをして会社を立てた。女性が会社を興すことなどありえない時代だったからだ。

30歳を過ぎた頃、あの神社が再建されようとしている、と知った。
自由にできる資金も増えていた私は、寄進を申し出た。
再建式の日。寄進した会社の社長ではなく、一般人として参列した。なんとなく、偽った姿であの神社に行きたくなかったからだ。

地元の人に言われた。
「あんた、〇〇ちゃんの娘さんかい？」
「いやいや、いくらなんでもまだこんなに大きくないだろうよ」
こんなやり取りを何度も聞いた。

薄々どころか半ば確信を持って気づいていて、単に目をつむり続けて来たのだが、いよいよどうにかしなければならないようだ。
私の体は、歳の取り方を忘れてしまったらしい。
……とはいえ、あの夜から受けて来た加護に比べれば、些細なことだ。