水色のウェーブがかかった長い髪を持ち、瞳の色は白い。おっとりとした印象を持つが、人間とは少し違うなにかを感じる容姿をしている。

とある海の白い砂浜で目覚め、私が珊瑚礁が起源のレネゲイドビーイングであるという情報だけを持った。記憶の中では見たこともない人間という生物に対する本能的な好奇心と何も知らない自分についてを知るために何も考えず旅を始めた。が、旅の途中で訪れた前世の故郷にて記憶がうっすらと蘇る。その記憶のまま海酔を訪れ、シーレーから貰ったペンダントがカウンターに置かれていることに気づき、全ての記憶が蘇った。

私は生まれつき病気だった。長時間外で遊ぶことができないから、遠出できなくて。本で見た海に憧れて、ずっとこの目で見たいと思っていた。そんなある日、家の近くにあったとあるバーが私を引き寄せたの。それがBAR『海酔』、彼……｜酔狂《シーレー》さんの持つバーだった。渦に呑み込まれるようにバーの扉を開けた私が目にしたのは私の憧れた海にそっくりな光景だった。青を基調とした色の壁紙に太陽の光が水面に合わせて反射しているような明かり、そして珊瑚をイメージされた綺麗な椅子や棚で美しく水のない海が彩られていたわ。その時初めて目を見開いたかもしれないわね。その後、お酒を1杯飲んでそのバーを立ち去ったの。でもあの時の光景が忘れられなくて、次の日になって私はまた『海酔』を訪れた。また昨日と同じお酒を頼んで今日は話しかけてみた「ねぇ、お名前は？」って。変な話よね、初めて会話するのにいきなりお名前を聞くなんて。でもあの彼はこう答えたわ。「……｜酔狂《シーレー》」って。でも私は不思議に思ったの。だって今までここら辺の人間達が名乗るお名前はいっつも苗字と名前に別れてたから。その人は苗字でも名前でも無いように聞こえた。だから聞いたわ。そしたら「あー…偽名だよ。偽物の名前」なんて返ってきたの。私は気になって理由を聞いたわ。でもそこまでは流石に答えてくれなかったわね。
さて、あれから3週間経った日の事だったわ。病気が治ったって、シーレーにも言うために私は何時も通り『海酔』に行ったの。あの時は知らなかったけどドアの前の看板がCLOSEになっていたみたい。そんなこと気がついていない私は何時も通りドアを開けた。…けれどそこには誰もいなかったわ。何故か何時も通りの内装の筈なのにいつもと違う光景にしか見えなかったわ。けれども私はいつも通りの席に座ってみたの。そしたらカウンターに置き手紙とネックレスが置いてあったわ。手紙には
『荒川へ
お前ならここに座って見てくれると思ったよ。なんせ世間知らずだしな。
先ずひとつ、俺はとある組織に追われていた身だったのだが……悪いな。居場所が特定されてしまったからまた逃亡生活に戻ろうと思う。頼むから俺のことは探さないでくれ。お前まで巻き込まれてしまうだろう。
3週間の間だがこんなちっぽけなバーに通ってくれたことは非常に嬉しかった。ありがとう。客も知り合いもお前しかいなかったからこのバーの所有権はお前に渡しておくことにしておくよ。二階に部屋もあるから一応住むこともできる。少々散らかっているがな……
今までありがとう。楽しかったよ』
と書かれていたわ。私は目を疑った。文字が読めなくなったんじゃないかって何度も何度も読み返したけれど、内容は1文字も変わらなかったわ。これは事実だったの。そんなの私は信じきれなかったけれど、でもこの手紙が現実なんだって証明するみたいで嫌になって気がついたら手紙はぐしゃぐしゃになってたわ。でもそんなんじゃ私は壊れちゃいそうで、前を向かなくちゃって嫌でも思ったの。だから私はBAR『海酔』を引き継いだわ。彼と彼の意志を忘れないために。

シーレーと前世の自分のBAR『海酔』を引き継ぎ、より人間について知るために、色んな人間が利用してくるであろう何でも屋も裏で始めた。得意のカクテルはオリジナルカクテル『珊瑚の記憶』
リベレーターについても何でも屋でポロッと客から聞いたことで興味を持ち、店を一時的に閉めて探している。