履歴
藤山 千輝(ふじやま ちあき) 享年17歳
シンドローム:キュマイラ/ブラム=ストーカー
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UGNイリーガルだった少女。
鉄道系清掃会社に勤める父と近所の仕出し弁当の工場で働く母のもと、長女として生まれる。
好きなものは放課後のおしゃべりと恋愛ドラマ、嫌いなものは高いところと爬虫類。
準ミスキャンパスだった母親譲りの愛らしい目元以外は、およそどこにでもいる少女だった。
彼女がオーヴァードとして覚醒したのは15歳の頃。中学校で実施された健康診断で判明した。原因は感染。経路・詳細は不明。
覚醒こそしていたものの本人に自覚症状はなく、状態も安定していたので、監視下に置くに留める予定だった。
しかし彼女を勧誘ないしは誘拐しようとFHのエージェントが動いた為、止むを得ずUGN支部にて保護し、自身、そして世界の状況について理解してもらうこととなった。
動揺や反発はあったものの、当時の支部員達の誠実な対応もあり、彼女はレネゲイドウイルス、そしてオーヴァード、UGN、FHといったこの世界のもうひとつの側面を知り、それを現実として受け入れるに至った。
とはいえ、一般的な家庭で育ち、人に刃物を向けたことすらない彼女はチルドレンとして活動するには相応しくなく、あくまで「有事の際のみ」「人命救助に関する事柄においてのみ」UGNに協力するイリーガルとして登録された。
記憶処理を行うことも検討されたが、彼女のエフェクトは戦闘に特化しており、もし自覚がないまま発現するようなことがあっては危険だと判断。
本人の意向もあり、定期検査で支部を訪れた際に、自身のレネゲイドをコントロールする為の訓練のみ受けることとなった。
生来真面目で、人の役に立つことが好きだった彼女は、自身の異能を恐れる気持を持ちながらも、同時に『力を持つ者』の責任についてよく考え、悩んだ。
自分を守る為にその身を盾にしてくれたエージェントやチルドレンの姿を思い起こしては、凄惨な光景に吐き気を覚えるとともに、『いつか自分も誰かを』と思うようになった。
彼女は、高校卒業後は正式にUGNに所属することを、ひそかに決意した。
しかし、少女の清らかな決意の裏側には、押し込められた欲望があった。
『力を持つ者』の責任?
ーー望んで持ったんじゃない。持たされただけ。いやだ。いやだ。動物みたいになるのも、血を美味しいって思うのも、いやだ。
『いつか自分も誰かを』?
ーーいつか私がなるものは、誰かを守るヒーローじゃなくて、誰かを殺すバケモノかもしれない。
ふつうの子でいたかった。
ふつうの子でいたかった。
ふつうの子でいたかった。
藤山 千輝の身近に、小川 三愛生(おがわ みあき)という少女がいた。
千輝と似た名前を持つその少女は、千輝の三歳年下で、幼い頃に両親は離婚、親権を取った母親は生活の為に遅くまで働いていた。
母親同士の気が合ったこともあり、いつしか三愛生は藤山家で夕食をとることが増えていった。
環境の為か、同い年の子ども達のなかでは難しい顔をして黙っていることが多い三愛生が、自分と自分の家族のまえでは素直になることを、千輝はとてもいじらしく感じ、妹のようにかわいがった。
千輝の隣には、もうひとり、佐々 良平(さざ りょうへい)という少年がいた。
彼は千輝の幼馴染で、中学生になった時は互いに意識し過ぎるあまり疎遠になったこともあったが、二年生に上がる頃にはぎこちない会話を交わすようになった。
周囲から「いつ付き合うんだよ」と囃し立てられ、それに慌てて赤面しながら視線を隣に向け合うような、そういうふたりだった。
野球とゲームが趣味で、近眼で、本人は大のお気に入りの黒縁眼鏡がいまいち似合っていない彼のことが千輝は大好きだった。
良平は初めて三愛生に会ったとき、本当に千輝の妹だと勘違いした。驚いた彼が何を間違えたか「おまえ千輝の隠し子か!?」と口走ったことは、何度も笑い話にされた。
千輝は良平とふたりきりで過ごしたいと思うこともあったが、三愛生はゲームが上手く、良平のよき遊び相手でもあったので、三人は夕食までの時間をよく共に過ごした。
いつか形を変えることがあっても、それでも自分達はずっと仲良しでいられる。
形を変えるとは、自分と良平が付き合うということ。
三愛生も成長していくにつれ、自分自身の人間関係へ向かっていくだろう。
三人は二人になり、生活が異なって、離れ離れになることもあるかもしれない。
それでも。
私達は顔を合わせれば何も変わっていないかのように会話ができると。
千輝はそう思っていた。
自分がオーヴァードになり、世界の隠された一面を見るまでは。
彼女は自身の異能を自覚し、取り扱い、制御していくにつれて、
ふつうの子である三愛生のことを憎く思うようになった。
エフェクトの解放。けむくじゃらになる自分の身体。電車の中吊り広告、永久脱毛の四文字を思い出す。視界が低くなり、自分が四つ足の体勢を取っていることがわかる。舌舐めずり。尖った牙。ハイヒールを履いたこともない足が、尖った爪で床を鳴らす。
恥ずかしいと思った。醜いと感じた。屈辱感さえ覚えた。
鏡に映った自分の姿は、良平がゲームのなかで撃ち倒したモンスターによく似ていた。
千輝は想像する。
変わっていくのは私だけなんじゃないか。
千輝は想像する。
三人が二人になる、いなくなるのは私なんじゃないか。
千輝は妄想に囚われる。
自分の亡骸の前。
良平が三愛生の肩を抱く様を夢に見た。
《ワーディング》を張った瞬間、階段を転げ落ち、廊下へ投げ出された三愛生の、ぴくりとも動かなくなった身体を支え、そして《抱擁》を与えたのは、どういうつもりだったのか。
それを説明できる言葉を千輝は持っていない。
再三にわたる要請を無視して定期検査と訓練に来なくなった千輝に対し、UGNは彼女のステータスを保護監視対象から警戒監視対象へと変更した。