悠馬の両親はFHエージェントであり、表向きはあの神城グループとも関わりのある大手企業の代表取締役としてその名を馳せていた。
そんな一家に生まれた悠馬ももれなくFHチルドレンとしてFHエージェントになるべく教育されてきた。
一家の教育方針は「世界を掌握する“完璧な”オーヴァードの育成」だ。あの人達は自分の子供を己が欲望を叶えるための駒としてしか見ておらず、自らが完璧だと思い込みそれを我が子にも当然のように要求した。
悠馬は幼い頃から表向きの上流階級に位置する者としての教育と“覚醒”のための過酷な教育（PE p.47参照）を受けていたがついにオーヴァードとして覚醒することは出来ず、そのストレスからかその眼は光を失ってしまった。

そんな中、14歳の時に倉敷家襲撃事件に巻き込まれ悠馬は一度その人生の幕を閉じた。
しかし皮肉なことに彼はその事件でオーヴァードとして再び生を受けた。もちろん両親にも死んだという報せはいっただろうが会社も今まで通り動いており、自分たちの思い通りにならなかった彼にもう興味は無いのかもしれない。

彼自身は死にきれなかった絶望よりもあの一家から解放された喜びの方が大きく、今は明日美と例え仮初めの日常だとしても何にも縛られない自由な日々を楽しんでいる。
そして、覚醒をしてからはこの能力のおかげである程度の物の位置や物の輪郭が分かるようになり、常に真っ暗だった視界に光が差したようだと彼は言っていた。

焔さんにも良くしてもらっており、彼にとって彼女は実の家族よりも暖かい存在になっているだろう。

「今村」という名前も表向きの偽名であり、本来の名前は別にある。悠馬は「今村」という名前も本名も名乗りたくないため誰かに名を聞かれれば「悠馬」とだけ答えている。それは明日美に対しても同じだろう。明日美が悠馬の名字を覚えているかはGMに任せるが悠馬は誰に対しても名字で呼ばれて良い顔はしないだろう。

明日美とは7歳の時、今村家としての付き合いで知り合いそれ以降友好な関係を築いている。悠馬の両親も倉敷家の才女として名高い彼女との付き合いは“今村家として”特に咎めるに値しなかったのだろう。
悠馬は丁度その頃、両目の視力を失ったが明日美の顔は一度見たことがあり覚えている。悠馬は（今はもう立派な女性になっているのか）と思っている。

悠馬の両親、もといFH組織に対して恨みがないと言ったら嘘になるかもしれない。
悠馬の日常がまたあの人達に壊されようとするのなら、与えられた全ての力を使って敵の殲滅を目指すだろう。
彼にとって敵の殲滅は過去の抹殺。故に彼の“自由”につながるのだ。
……FHで彼が覚醒してなかったのが不幸中の幸いなのかもしれない。

倉敷家襲撃事件以降はあの一家とFHから身を遠ざけたい一心でわざと制服を着崩したり、言葉遣いを荒っぽくしたりと少し子供っぽい抵抗も見せている。
しかし背中などには昔の教育の過程で出来た古傷が多くあり、周りを心配させないためにも（特に明日美と焔の前）では首から下の素肌は見せないようにしている。

まさかのキリスト。こんなに合いそうなお話があったなんてね。

「無名のキリスト者」
キリスト教徒でなくともその恩恵を得られる場合がある。
Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E5%90%8D%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E8%80%85
福音と宗教9 第二章　宗教の神学
https://www.tenryo.net/old/rel-2-5.htm

『あのかたが罪人であるかどうか、わたしは知りません。ただ一つのことだけ知っています。わたしは盲であったが、今は見えるということです。』
ヨハネによる福音書
https://www.wordproject.org/bibles/jp/43/9.htm

悠馬にとってこの能力は文字通り物の輪郭を照らす光であり、そしてこれからの明るい未来へと導くための光ともなる。
自分が『見えている』と思う時、大切なものは何一つ見えていない。逆に『何も見えない』のなら物事の本質が見えてくる。
（こう……相手の目は見えないはずなのに見透かされている気がするの、いいですよね。）