16年前、一人の女の子が産声を上げた。家族にとってそれは福音であり、皆がそうしたように苦労もありながら育て上げられた。
だが、幸せの一時は、長くは続かなかった。その女児が物心を覚えたころ、家族が死んだ。
些細ないざこざから生活圏を追いやられ、彼女は一人になったのだ＿＿しかし、それすら悲劇の始まりに過ぎない

身寄りがない子供が生きていくには辛い環境。だが、彼女は拾われた＿＿
拾われた理由は単純。レネゲイドに対する適性の高さ。オーヴァードとしての戦闘能力を持っていたからだ。

研究施設の能力覚醒・成長の過程は＿＿控えめに言って地獄だった。
痛み・苦しみ・悲しみ＿＿ありとあらゆる覚醒の手順を経験した。
喰らい・傷つけ・嫌悪する＿＿発覚している衝動の模範。

それらすべてを経験し、最終的に至ったのが……
“殺戮衝動”
誰かを傷つけずにはいられない、それが彼女の本質であった。

科学者たちは浮足立った。実験に一つの成果が出たのだ、喜ばないヤツがいるだろうか？
ただ、それは油断を生んだ。そう、首輪をきちんとつけていると思っていた【飼い犬】が【狂犬】に変わっていたのを



すべてが終わった後に、崩壊した研究所をUGNが訪れた。
生存者0、見た限りでもそう結論付けられるほどの惨状。
だが、凄惨な殺人現場の中心には、血に濡れた一匹の狼が佇んでいた。

エージェントが尋ねる“君がやったのか？”
狼が答える“ああ、そうだよ”
エージェントが尋ねる“侵蝕率93…… 今のところはジャームではない。でも、今の君の姿は誰が見ても殺人鬼だね”
狼が答える“フフッ、殺人鬼か。良い響きだね＿＿ただ、僕は快楽でやったのは確かだけど、命も危険も感じたんだ。わかってくれる？”
エージェントが尋ねる“＿＿＿そうか、じゃあ選択肢を用意しよう。”

ひとつ、このまま私たちに処理させる。
ふたつ、ここから逃げおおせる。
みっつ、私たちに保護される。

“私たちはどの選択も尊重する。その上で、職務を全うするが、な”

あくまでオーヴァードであれば保護しようとしている彼ら。それを聞いた狼の答えは＿＿＿


“んじゃ、捕まえて、保護してもらおうかな。僕、お腹空いちゃった。ハンバーグって頼める？”