小学校からの付き合い。お互い、交友関係が広いわけではなく教室では大抵1人だった。
長峰咲久という、いつもどこか寂しげなクラスメート。両親の離婚の噂。妙に怪我が多い。
憐れみか、いつも1人でいることに対する単純なシンパシーかはともかく、星川の方から声をかけたのが始まりだった。

母親が自身を生んで間もなく病死。
母方の祖父母の家に預けられてしばらく過ごしたが、3歳の頃に父親が再婚して家に戻る。
しかし継母は咲久には全く興味が無く、父親だけを目当てに後妻となっていた。
咲久を大切に思う父親の機嫌を損ねない為だけに継母は育児を行う。
愛情の薄っぺらさを幼心に感じ取っていた咲久は継母に全く懐かず、それに苛立った継母は歳を重ねるごとに乱暴になっていった。
小学生の頃に虐待が露呈して、紆余曲折を経て離婚。父親は男手ひとつで子育てすることを決意した。
谷修成と知り合ったのはその頃。昔馴染みの息子のよしみで、その後も何かと気にかけてくれるようになった。
とは言え父親の職業は警察官。深夜勤や休日出勤も珍しくなく、たまに親戚が家事を手伝いに来るものの家では一人ぼっちになることが多かった。
そんな頃に心の支えになったのが、町の片隅の公園にあった桜の大木。寂れた田舎町である地元の数少ない名所であり、父親と母親がよく散歩で訪れていた場所だった。
父親曰く、母親の腹の中にいた頃、その桜の木の下に来ると何故かよく動いたのだという。
「桜の木を見たくて生まれてきたんだろう」と信じた両親は、子供に桜にちなんだ名前を授けようと決め、性別が男の子と知って悩んだものの、その末に「咲久」という名前に決めたのだった。
寂しくなればいつもその桜の木を見に来た。花が咲いていようがいまいがそこに来た。
別段花は好きではなかったけど、そこに来れば自然と気持ちが落ち着いた。
しかし中学生の頃、その桜の木が落雷により焼け落ちてしまう。
大切な心の拠り所を失って以降は無気力気味になるが、星川と一緒にいる時はなんとなく前向きになれた。
ある時、谷と連絡を取っていた時のちょっとした雑談で「好きな子とかいるの？」という一言をきっかけに星川を意識してちょっと元気になる。ちなみにその時は「いや、別に……いねえけど……」とはぐらかして話を終わらせた。
あれこれ自分なりに頑張って、高校へも無事進学。
父親を助ける為にも卒業後は就職する気満々。
星川にはまだ何も言えてない。

「こっち見んなよ……！！」

能力を使用すると全身に奇妙な紋様が浮かび上がり、周囲に黒い雲のようなものが漂う。
しばらく能力の使用を停止すると引っ込むが、5分くらいかかる。