名のある家に生を受ける事に対して人はどう思うのだろう。安定した人生、何不自由なく使える財産、高い水準の教育
大半の人達はそんな漠然とした利点ばかりを挙げるけど.....実態はそんなに素晴らしい事ばかりでは無い
何の才があるかで自身の人生“道”を整えられ
誰かが選んだ顔に性格、あるいは名前すらも知らない人と結ばれる....そんな退屈な人生を幼いながら受け入れるしか無かった
........行方が知れていない義兄が帰って来るまでは
今日も快晴、本来であれば庭先に出て肩を伸ばしながら日光にあたり数少ない心の平穏を手にする時間だが.......どうやら私の心境は目の前に広がる空とは対照的に大豪雨な模様
ソレもそうだろう。一ヶ月程前から行方が知れていなかった義兄の帰還、今日は彼への挨拶に一人で赴かねばならない....ハッキリ言うと私は彼が苦手....否、嫌いであり何より妬ましく思っている
才能と嗜好が彼の望む形そのままである事もそうだが.....偶然ソレが重なっただけであそこまで持て囃される彼の話を耳に入れるだけで胸の奥が何とも言えないモヤっとした感情に染まっていく
......嗜好と才能さえ噛み合えば私だって、という八つ当たりに近い感情を抱え込みながらも歩みを進める。彼のいる部屋の扉は目の前だがどうしても開く気になれない。何といってもこの家の男児、ソレに加えてその中でも上位に位置する立場に才能
機嫌を損ねた場合自身に降り掛かる災難が目に見えている分余計に気が沈むと言うものである
されど約束の時間は迫り来るもの、数刻程度奪っただけで気をやられては困るが故に私は目の前の扉に手を掛け横に滑らせる。
スルスルと扉を滑らせ終え最早定型分と化した挨拶に自己紹介を終え顔をあげる
途端。私の脳と目の情報が混濁する
目の前に居るナニかを私は知らない、知っているがこれ程までに存在感が希薄ではなかった
写真で見た通りの顔、背丈、衣服。何も変わりない、何も変わりが無いのにまるで....異界からの景色を投射されたと言われても納得してしまう異物が其処に在った
かく言うソレは私の自己紹介に対し簡素な言葉で返す。要件は以上か、と言わんばかりの態度に少々苛立ちを覚えつつも笑顔だけは崩さず手土産を置く旨を伝え部屋を後にしようとした時ソレは再び口を開く
“抑圧して混ざり合っている....それは良く無い感情だ。何か悩みでもあるのか?”
まるで内面を覗いたかの様な発言に心臓は跳ね上がるが態度を取り繕い謝罪の言を紡ぐ。何処か気に障ったのかと、以降は粗相の無い様に気をつけると
その文に何を思ったのか再びソレは言葉を口にする
“.....成程、今日から一週間。全ての予定を取り下げると良い。上や向こうには俺が説明しておく”
はて、ソレの言ってる意味が理解できない
予定の取り下げ?出来る訳がないだろう。大体子供一人の発言を誰が聞くものかと軽く言い返そうと口を開く前に
“ならば言い方を変えよう。気に障ったから一週間自室で己の行動を振り返れ”
......どうやら多少は頭が回る様だ。
返す言葉を見失い喪失感と軽い怒りを腹に収めながらも自室へと戻り次への支度をしつつ言い訳を考え部屋を出る。途端、私の視界が暗くなり浮遊感と共に次第に意識が落ちる
一体どれだけ眠っていたのだろう。目を覚まし真っ先に日付と時間の確認を.....一週間、気味の悪いことにアレが言っていた期間を寝て過ごしてしまった様だ