“へリックスプロジェクト”のデータをもとに開発された新型動力源を持つ超大型機体。
元の計画では一人のオーヴァードから継続的にレネゲイドを燃料として吸収する予定だったがシステム開発に難航、被検体の暴走もあり一時中断していたが初瀬瑞代がオーヴァードに覚醒したのと同時期に機体が強制的に起動シークエンスに入り、その後瑞代が開発の中心となった事で急速に研究開発が加速。瑞代の提言によりオーヴァードを使い切りの燃料とする事で完成にこぎ着けた。

オリジナルの動力に比べ燃料の補給を行なう必要があるもののレネゲイドの過剰供給による出力の向上が可能になった。
暫定的な燃料としては実験で失敗したジャームや一般人を強制的に覚醒させて賄う予定。
なお機体の設計データにはFHが極秘裏に入手した様々なレネゲイドヴィークルのデータが投入され、特に“パンタソス”“ノーブルアウリオン”“ヨルムンガルーダ”“カルキノス”“ロードビースト”などの諸元や運用データは開発に大きく寄与した。

開発に携わったFH所属のレネゲイドビーイング曰く『狂気から生まれたコイツは自分以上の狂気を持った操縦手を求めているな。私は自身の狂気を人格にしたが、コイツは認めた主君の指示を欲している。とびきり優秀で、とびきりイカレていて、最大限の破壊を躊躇いなく実行できて、確固たる欲望のある奴だ。コイツの御眼鏡に叶う操縦手が現れた暁には空からゆっくり観賞させてもらうことにするさ。』

パイロットへの負荷は全く考慮されていない。パイロットは研究開発にも大きく寄与した初瀬瑞代。実質的な彼女専用機でもある。

兵装・機能・諸元

・胸部高出力砲“エニューオー・ダークリィ”
エリス本体の胸部に搭載されてある砲門。照射、収束、拡散を切り替え可能なビーム砲であり必要に応じて瑞代がコックピットから自身のレネゲイドを供給する事で出力の向上も可能。

・超高硬鉄爪“エマティノス・ネイコス”
レネゲイドを用いて錬成された真紅の鋼爪。並大抵の物体なら苦も無く握り潰し引き裂ける。

・背部大型バックパック“アーテー”
エリス本体の背中に取り付けられる大型バックパック。遠隔自律攻撃システム“ホルコス・アンサス”、超大型粒子砲“アルゴス・セレーネ”、空間干渉システム“デュスノミア・アイギス”などを搭載してある。

・遠隔自律攻撃システム“ホルコス・アンサス”
六機の自律稼働浮遊砲台。エリス本体と合わせて同時攻撃や分散して殲滅などに利用される。ビームによる砲撃とビーム刃を生成して突撃が可能。

・超大型粒子砲“アルゴス・セレーネ”
バックパックに搭載された二門の大型大砲。瑞代のウロボロスの力とノイマンの頭脳で研究制作され、取り込んだオーヴァードのレネゲイドを粒子レベルに分解濃縮し、各シンドロームによる破壊の力を引き起こすもの。発射されると超高熱の熱線と重力崩壊が発生、着弾地点を大量のレネゲイドで汚染する。

・空間干渉システム“デュスノミア・アイギス”
敵の攻撃に際して周囲の空間ごと干渉し攻撃を捻じ曲げるシステム。被害の軽減に加え、攻撃を反射する事で敵にダメージを負わせる事も可能。なお使用に際し“アーテー”内に収容している燃料オーヴァードを一つ焼き尽くさないと十分なレネゲイドを調達出来ないので連発は厳しい。


FH-EXR-V82　Eris-Ate
全高：45.9m
重量：92.0t
出力：計測不能
所属：FHセル“AIM”

AM2:49、FHセル“AIM”内、瑞代の部屋

ディスプレイと睨み合いながらキーボードを叩く。ヘッドホンから流れる友人の歌声に合わせて映像を組み合わせる。
変わってしまった、そうでなければ生きていけなかった友人の歌声が鼓膜を揺らし、液晶には悲しいまでに煌びやかな友人の姿。
これを目にして、そして耳にした人間共はどんな感想を持つのだろうか。
奇麗、カッコいい、妖艶、刺激的。
ありきたりで、そして下賤な感想で彼女を消費するのだろう。



ああ、反吐が出る。

病室で私の為に歌ってくれていた友人の歌声は、もうない。
共に笑いあった友人は無残に散った。
僅かな希望にすがり続ける友人の手を取る事すら出来ていない。


私が弱かったから。弱かったから大切な友達を喪い、傷つけ、追いつめている。
今だってそうだ。彼女を下賤な視線に晒しているのは他でもない自分自身ではないか。
ただ、仲が良かったから、一つだけ年齢が上だったから、たまたま同じ境遇で覚醒したから。たったのそれだけで純然たる被害者の彼女たちから信頼を集めている悪人が今の私だ。



動画のアップロードが完了した、と表示がディスプレイに現れる。
めでたくインターネットアイドル“LUNA”(イケニエにされたトモダチ)の新曲の出来上がり。数日も経てばあっという間に万単位で再生され、新たなファン(ゴミ)がつく。そしてまた彼女はその身を汚すのだろう。私たちの為に。

ハァ、と大きな息をつくもすぐにキーボードを叩き新たな画面にパスワードを打ち込む。
電子ロックがかけられたヴェノメノンの部屋が独りでに開いた。



主を喪って久しい部屋だがレネゲイドで捻じ曲げ広げられたそこには今は巨大な鋼鉄の巨躯が収められている。
いや、瑞代に言わせれば彼女“も”そこにはいるのだろう。

機体のメンテナンスや調整を一通り終え、鎮座する機体の前で瑞代は祈るように独り言ちる。
「私の命なんていくらでもくれてやる、生贄だっていくらでも用意する。だからお願い。あの子たちの未来と希望と幸せを取り戻して。」



女神の名を冠する機体の赤い双眸が不気味に光った、そんな気がした。