●死にそこねた青年

18歳のとき、恋人と共に生きるのが嫌になるほどの出来事に遭った。
2人で死のうと決め、氾濫した地元の川に飛び込んだ。

両脚を縛り、互いの小指を紐で結び――
死がふたりを分かたぬようにと祈りながら。

酸欠で意識を失い、河川敷で目を覚ましたとき、
紐の先には彼女の手首だけが残っていた。
そして、運の悪いことに自分だけがオーヴァードに覚醒していた。

●死ににくい体

覚醒した体は、不自然なほど死ににくかった。
筋力が増したわけではない。
ただ、傷が浅く済み、人体の限界を超えても意識は落ちない。

ナイフで手首を切っても軽傷、血を流しても平然と立っていられる。
何度も死のうとして、やがて馬鹿らしくなった。
これはもう、自殺ではなく耐久実験だと。
そうして、一人で死ぬことも、彼女の後を追うこともやめた。

●心中未遂という名

彼は自らをLove youと名乗っているが、
周囲のFHエージェントたちは彼を心中未遂と呼ぶ。

最初の犠牲者は勤務先の女子大学生。
次は、隣室に住む未亡人。

彼はエフェクトで非オーヴァードを惹きつけ、心を開かせ、絶望に沈め、最後に「一緒に死のう」と誘う。
けれど、死ぬのはいつも女の子だけだった。
「俺は死に損なった。いまさら1人で死ぬのは寂しい」
彼はそう言う。
だから一緒に死んでくれる女の子を、今も探している。

●リリアーナについて

リリアーナはいい子だと思っている。
高飛車で生意気だが、子どもらしいと感じると微笑ましくなる。
非力に見えてもオーヴァードである以上、きっと自分と同じように死ににくいだろう。
そして、実父に冷遇されているという点もウメキには都合がいい。
親に拒まれる痛みは、ときに人を死に導くほど深いと、彼はよく知っている。
彼女が健やかに育つよう気を配りながら、その心の中で自分の占める割合が少しずつ大きくなるよう仕向けている。


日系アメリカ人
梅木家のウリヤくん

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