高速移動にひたすら特化した異能。ただそれだけ。
　空気の壁を領域でこじ開けながら、物理の限界を容易く超えつつ神速の逃亡を見せる。
　父の特性でもあろう、移動能力に特化したのはゲノム解析の副産物でもある。

　ウィルスに適合せず死亡した母体より取り上げられる。
　一見の身体構造は人間そのものだが、設計図の半分は鏡写しのようにレネゲイドで構成されていた。
　これは自然による単為生殖に他ならず、優秀なオーヴァードを容易に量産できる可能性でもあったが、再現性は無かった。
　データ収集完了後、チルドレンとしての教育を受ける事になる。
　当時の検体名は『Dolly』
　通名もそこから名付けられている。
　父と乳以外は瓜二つな事を誰も知らない。

　長年かけて馴染んだ教育施設の管理官が付き添い、不正防止の為に一人で臨んだペーパーテストや身体能力検査では満点に近い成績を残す。
　反面、実務試験では躊躇のない敵前逃亡が疑問視されることもあった。
　上層部でいかなる議論が交わされたのかは定かではないが、花形の日本支部着任を果たすことになる。

　ちなみに知らない人間に囲まれ、知らない環境で行われたアカデミアのランク判定でどれだけの無様を晒したかは言うまでもない。