真眩は幼少期、酷いDVを受けていた。
父のことは顔すら知らないし、母も父が誰なのか知らない。
母はいわゆる水商売をしており、稼ぎは悪くない。
しかしながら、真眩の生活は最悪だった。

普通の食事が出来るのは学校でのみ（当然給食代は出ていないが学校側は母親の周りが怖く手が出せないでいた）。
機嫌が良いときは何か食べれるものをくれるが、それ以外は何も恵んでもらったものはない。
母親が帰ってくれば殴られ、掃除していなければ殴られ、母親は真眩のことをサンドバッグとしか思っていなかった。
それ以外の食事は、近くにいたホームレスから教えてもらった、植物とか虫を食べて凌いだ。
だが、それにより普通なら死ぬようなDVでも生きながらえてしまったのが母親を増長させてしまったのかも知れない。
母親からの真眩の扱いは日に日に悪くなっていった。
聞いた話によると真眩の名前の由来は、枕営業がどうのとか言っていたようだ。

そんな中、真眩に転機が訪れる。
それは道端でついに行き倒れていたところを顔も覚えていない誰かに助けてもらったときだった。
その人物は警戒する真眩に食事を提供した上で言った。
「君はこれからどうしたい？」
「分からないか･･････じゃあ、こういうのはどうだろう」
「自分の理想を想像してごらん」
「それに近づけるように努力をしてみよう」
「そうすれば、君の世界はきっと変わっていくよ」
「魔法みたいにね」
そう告げられたとき、真眩の心の中に存在しないはずの情動があふれ出す。
自分にもっと自信があったら、自分がもっとすごかったら、自分がもっと強かったら、
子供にとってのそれらの意味なんて単純なものにしかならない。
だから、真眩は自分の中の理想をこう定義づけた。
誰よりも可愛くなりたいと。

それから帰ってすぐに母親の化粧品を漁って、見様見真似で化粧をしてみた。
まるで才能があったかのように、まるで初めから使い方を知っていたかのように真眩は自分を変身させた。
母親が帰ってきて、真眩は自慢するように問いかける。「可愛い？」と。
母親は自分の化粧品が勝手に使われたことに激怒し、真眩の首を絞め、殴った。丁度機嫌も悪い日だったらしい。
それでも、彼女は笑顔を崩さなかった。電光掲示板で見るアイドルらは笑顔を崩したことはない。
笑顔は可愛い。笑顔でいる限り可愛い。そう思って真眩は笑顔のままでいた。
さらに明らかに死んでもおかしくない程の暴力を加えられたにも関わらず、真眩は死ななかった。
覚醒していたのだ。それに恐怖した母親は逃げだし、丁度レネゲイド反応を感じ取ったエージェントに保護されることになった。

それから、彼女はUGNにて生活するようになるのだが、彼女はそこで異常なまでに可愛くあろうとした。
自分は可愛いと狂気じみたように暗示し、食生活を徹底し、トレーニングも欠かさない。
そして何より可愛いという心意気を乱さない。
可愛ければ世界は変わる。彼女にとって可愛いとは自分を変える魔法の呪文。
この世界を良くするために、もっと可愛い存在が溢れるために。
皆が可愛いを自由に享受できるように、今までの自分のような子が増えないように。
彼女は可愛くあり続ける。全ては自分の理想の姿を体現するため。

この信念があるため彼女の中で可愛いは最重要項目であり、それをけなすことは許さない。
また、彼女のなかで「可愛くない」だけは最大級の侮蔑であり、この言葉だけは決して使わないと心に決めている。

余談だが、サバイバル術は幼少期にほぼマスターしているため、無人島にレネゲイド無しでほっぽり出されても生きていける。
虫食とかも普通に行ける。皆の前でしないだけで。