床につくほどの長い黒髪、やせぎすの体、不健康そうな青い顔。
耳をすっぽりと覆うヘッドフォンはとても外界の音を拾えるとは思えないし、巻いたアイマスクは完全に目を覆い視界を完全に塞いでいる。
どこからどう見ても真っ当な人間には見えないが、彼女と会話をすればすぐ気付く。

外見には不釣り合いな、明朗で、溌溂とした、それでいて温度を感じさせない機械じみた声。
────外見以上に、彼女は“真っ当ではない”のだ、と。

極度の人間不信の引きこもりの明朗快活ではきはきとした少女。
自身にすら関心を向けられないものぐさ勤勉で組織に従順なはたらきもの。
識覚の欠落によりマトモな人格形成の出来ていない誰とでも円滑なコミュニケーションを取る事が出来、また揺るがない“自分”を以て他者と相対出来るヒト。
そう彼女(わたし)が当機(わたし)を定め、当機(わたし)は彼女(わたし)をリライトする。
彼女(わたし)は当機(わたし)。
当機(わたし)は彼女(わたし)。

ね？　単純でしょ？

先天的な視覚聴覚の疾患（識覚＝世界を認識する感覚の欠落）により、外界から完全に断絶された少女。
外部情報は接続されたラップトップに具えられた収音マイクと高性能カメラで行われている。

8年前にとあるエージェントが任務の際、ワーディング下で泣き叫ぶ彼女を発見。そのまま捨て子としてUGNに保護される。
診療データから障害を発見すると、彼女の担当医は当時としては最先端の技術である骨伝導イヤホンを使用。
結果として彼女に声が伝わる事は無かったが、レネゲイドが刺激に反応して新たに感覚器官を生成。
そのままイヤホンとPCを取り込み、PC上に人格を形成し始めたことから、以降、データをラップトップ（これもノイマンが組んだ最高峰のスペックを誇る者だった）に移管。これを第二の脳としてチルドレンとしての人生を歩み始める。

多重人格のように思われるが、実際の所二つの人格は地続きであり、PC上で走る思考ルーチンが脳を制御している、と言うのが実態に近い。脳は脳で基本的に勝手に思考するもの──そもそも彼女はUGNに保護されるまでまともに人格形成が為されておらず、外部情報であるPCと繋がった事で初めて人格を形成し始めたということもあり──なので、野放図に繰り広げられる思考の原野をPC側から制御を加えてヒトの形に保っているのである。

思考を“自身”によって完全に制御された、完璧で幸福な存在。
それが彼女なのである。

「……アイツか？　アイツは俺が見た中で一番幸福で、一番不幸な人間だよ」
「俺とは違った意味で人間にも化け物にも成り切れない、クソみてェな境界人(マージナル)だ」

紅緒　和沙
https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/dx3rd/?id=n51CK7
彼が覚醒してから、学園に行くまでの間、短い一時であったが行動を共にしていた事が有る。