“Dr.”楠木茜
プレイヤー:ニッキ
「こんなに頼りない私だけど、それでも、あなたの力になりたいの」
- 年齢
- 16/??
- 性別
- 女/男
- 星座
- 射手座
- 身長
- 156
- 体重
- 48
- 血液型
- 不明
- ワークス
- UGNチルドレンB
- カヴァー
- N市公立高校生徒
- ブリード
- クロスブリード
- シンドローム
- ソラリス
- ブラム=ストーカー
- HP最大値
- 24
- 常備化ポイント
- 6
- 財産ポイント
- 4
- 行動値
- 8
- 戦闘移動
- 13
- 全力移動
- 26
経験点
- 消費
- +44
- 未使用
- 0
ライフパス
出自 | 本当のお父さんとお母さんのことは、もう覚えてないの。 | |
---|---|---|
天涯孤独 | ||
経験 | UGNに保護されてから、彼女はずっとこの世界で生きている。 | |
純粋培養 | ||
邂逅 | 昔の思い出。苦痛の記憶。でも彼が、その痛みから救ってくれた。 | |
恩人 | ||
覚醒 | 侵蝕値 | いたい。痛い。イタイ。不気味にこちらを観察する大人たちは、何もしてくれない。朦朧とする意識の中、苦痛に苛まれる幼い彼女に、"彼”が宿った。 |
感染 | 14 | |
衝動 | 侵蝕値 | 身体が熱い。体内中の血液が、沸騰するかのようだ。はやく、はやく、ヒトを刺して、裂いて、嬲って、潰して、その血を引きずり出したくて仕方がない。 |
加虐 | 15 | |
侵蝕率基本値 | 29 |
能力値
肉体 | 1 | 感覚 | 3 | 精神 | 2 | 社会 | 3 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
シンドローム | 0+1 | シンドローム | 0+2 | シンドローム | 1+1 | シンドローム | 3+0 |
ワークス | ワークス | 1 | ワークス | ワークス | |||
成長 | 成長 | 成長 | 成長 | ||||
その他修正 | その他修正 | その他修正 | その他修正 | ||||
白兵 | 射撃 | 8 | RC | 1 | 交渉 | ||
回避 | 1 | 知覚 | 意志 | 調達 | |||
情報:UGN | 2 | ||||||
情報:噂話 |
ロイス
関係 | 名前 | 感情(Posi/Nega) | 属性 | 状態 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Dロイス | 奇妙な隣人 | ― | 《オリジン:コロニー》を1レベルで取得する。 | ||||
友人 | 浅見菫 | 友情 | / | 無関心 | わたしを部活に誘ってくれたの。大事なお友達。 | ||
後見人 | 芹沢晃一 | 親愛 | / | 疎外感 | いつもわたしのことを気にかけてくれる、親代わりのような人なの。 | ||
転校生 | 今方瀬奈 | 感服 | / | 不快感 | とっても魅力的な女の子だなあ。 | ||
上司 | 斧山航 | 信頼 | / | 隔意 | 支部長はとっても強くて頼りになるけど、お仕事ばかりなのはちょっと心配。 | ||
仲間 | 大神真珠 | 連帯感 | / | 劣等感 | 戦う姿がとっても力強くて、わたしも頼もしいの。 | ||
仲間 | 篠懸 宗延 | 尊敬 | / | 不思議 | まとう雰囲気が大人っぽくて、でも少し掴みどころがないかなあ。 |
メモリー
関係 | 名前 | 感情 | |
---|---|---|---|
?? | 医師 | 傾倒 | わたしの恩人。大好きな医師。”遠い彼女の記憶”を参照。 |
エフェクト
種別 | 名称 | LV | タイミング | 技能 | 難易度 | 対象 | 射程 | 侵蝕値 | 制限 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザレクト | 1 | オートアクション | ― | 自動成功 | 自身 | 至近 | 効果参照 | ― | |
(Lv)D点HP回復、侵蝕値上昇 | |||||||||
ワーディング | 1 | オートアクション | ― | 自動成功 | シーン | 視界 | 0 | ― | |
非オーヴァードをエキストラ化 | |||||||||
コンセントレイト:ブラム=ストーカー | 2 | メジャーアクション | シンドローム | ― | ― | ― | 2 | ― | |
C値を-[Lv] (下限値7) | |||||||||
痛みの水 | 1 | メジャーアクション | 〈射撃〉 | 対決 | 単体 | 視界 | 2 | ― | |
「攻撃力+LV」の射撃攻撃を行う。このエフェクトを組み合わせた攻撃で、対象に1点でもHPダメージを与えた場合、さらに対象にバッドステータスの放心をあたえる。 | |||||||||
滅びの一矢 | 1 | メジャーアクション | 〈射撃〉 | 対決 | ― | 武器 | 2 | ― | |
このエフェクトを組み合わせた射撃攻撃のダイスを+[LV+1]個する。ただし、このエフェクトを使用したメインプロセス終了時に、あなたはHPを2点失う。 | |||||||||
腐食の指先 | 3 | メジャーアクション | 〈白兵〉〈射撃〉 | 対決 | 単体 | 武器 | 2 | ― | |
このエフェクトを組み合わせた攻撃が命中した場合、そのシーンの間、対象の装甲値を-[LV×5](最低0)する。 | |||||||||
血の宴 | 2 | メジャーアクション | シンドローム | 対決 | 範囲(選択) | ― | 3 | ― | |
このエフェクトを組み合わせた攻撃の対象を範囲(選択)に変更する。このエフェクトは1シナリオにLV回まで使用できる。 | |||||||||
封印の呪 | 2 | メジャーアクション | シンドローム | 対決 | ― | 視界 | 2 | 80% | |
このエフェクトを組み合わせた攻撃が命中した場合、対象が次に行う判定のクリティカル値を+1する。このエフェクトは1シナリオにLV回まで使用できる。 | |||||||||
アクセル | 3 | セットアッププロセス | ― | 自動成功 | 単体 | 視界 | 3 | ― | |
そのラウンドの間、対象の【行動値】を+[LV×2]する。 | |||||||||
血の彫像 | 1 | メジャーアクション | ― | 自動成功 | 単体 | 至近 | ― | ― | |
血液による彫像を作り出すエフェクト。 | |||||||||
ブラッドリーディング | 1 | メジャーアクション | ― | 自動成功 | 単体 | 至近 | ― | ― | |
血や体液(涙など)から、その主の情報を読み取るエフェクト。GMは必要と感じたなら、〈知覚〉による判定を行わせてもよい。 | |||||||||
オリジン:コロニー | 1 | マイナーアクション | ― | 自動成功 | 自身 | 至近 | 4 | RB | |
このエフェクトが持続している間、あなたは暴走をのぞく、すべてのバッドステータスの効果を打ち消す。この効果はあなたがLV個のバッドステータスを打ち消すか、シーンの終了まで持続する。 |
コンボ
黒死病
- 組み合わせ
- コンセントレイト:ブラム=ストーカー+痛みの水+滅びの一矢+腐食の指先(+血の宴+封印の呪)
- タイミング
- メジャーアクション
- 技能
- 射撃
- 難易度
- 対決
- 対象
- 範囲(選択)
- 射程
- 視界
- 侵蝕値
- 8(11/13)
- 条件
- ダイス
- C値
- 達成値修正
- 攻撃力
- ダイス
- 100%未満
- 3+2
- 7
- 8
- 1
- 100%以上
- 3+3
- 7
- 8
- 2
- 3+2
痛みの水で射撃攻撃を行う。
命中した場合、敵の装甲値が-10(-15)、次のダイスのクリティカル値+1、さらにダメージが通った場合放心付与。
一般アイテム | 常備化 | 経験点 | 種別 | 技能 | 解説 |
---|---|---|---|---|---|
コネ:噂好きの友人 | 1 | コネ | 〈情報:噂話〉 | 噂話を仕入れてくる友人。〈情報:噂話〉の判定のダイスに+2個する。 | |
コネ:UGN幹部 | 1 | コネ | 〈情報:UGN〉 | 情報に通じたUGNの幹部。〈情報:UGN〉の判定ダイスに+2個する。 |
経験点計算
能力値 | 技能 | エフェクト | アイテム | メモリー | 使用総計 | 未使用/合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 15 | 144 | 0 | 15 | 174 | 0/174 |
侵蝕率効果表
現在侵蝕率:
容姿・経歴・その他メモ
【楠木茜】
「こんなに頼りないわたしだけど、それでも、あなたの力になりたいの」
「この日常にいらないもの、この日常を傷つけるもの、この日常の均衡を、崩すもの。ーーすべて、取り除かないと」
「だから、お願い。"Dr."」
深い赤色の髪に、檸檬色の瞳をした少女。いつも軽く眉尻をさげ、穏やかさをたたえた表情をしている。ソラリスの力を持つため、重力を感じさせない身体操作を見せるが、戦闘行為は苦手なようだ。ワーディングが貼られた時は、すぐに巻き込まれた一般人の救助にあたり、サポートに徹する。愛想が良く人懐っこい性格をしているため、同僚や任務先の友人とも良好な関係を築けている。
しかし一見温和そうな彼女だが、任務の抹殺対象には容赦のない反応をみせる。その様は激昂するでもなく、声を荒立てるわけでもない。敵が死ぬのはすでに決まったことであるかのように、理解も同情も示さないだけ。ただ淡々と、いつもの柔らかい声のままで、敵を排除することを主張するのだ。
また不思議な点として、彼女が一人でいる時、何かと会話をするような仕草を見せる。言葉を交わしている彼女の表情は、信頼しきった大人に甘える子供のようで、いつにも増して幼く映る。しかし、会話をする相手の姿は見えない。通話をしているのだろうか、あるいはーー。
【??】
「ーーッヒ、ヒハハハハ!!ようやくオレの出番かよぉ。呼ぶのがおせぇぞ、茜」
「アァ?オレの名前なんてどうでもいいだろうがよぉ。オレはただ、お前の治療を担当するしがない"Dr."。それだけだぜぇ?」
唐突に、彼女の様子が変わる。周囲を大量の血液が覆ったかと思うと、次の瞬間には、不気味なマスクをした彼女が立っていた。悪辣で、残忍で、加虐的な人格が、彼女の身体を支配する。それは奇妙な隣人、細菌に由来するレネゲイドビーイング。彼女の心と体に寄生する彼こそが、コードネーム"Dr."。
普段は表に出てこないが、戦闘行為を行うとき、侵食率が高くなっているときなどに彼は現れる。必要がないから出てこないだけで、人格を交代すること自体はいつでもできるらしい。驚くべきことに、彼は中世ヨーロッパを襲った死の病、ペストの治療を担ったペスト医師であると自称している。しかし、どうして数百年も前の人間の人格が出現したのか、その発言が真実なのかという点については、仕組みが解明されていない。ただわかるのは、彼がろくでもない藪医者であり、人間が流血する様を見て興奮する異常者だということだ。
【ある研究員の記録】
この記録は、被験体No. ××××【楠木茜】に関するUGNの調査報告に、僕個人の主観を交えた手記のようなものだ。いつか彼女が、『彼』と向き合う時のために、僕の知る限りの事実を記しておこうと思う。
【楠木茜】は××××/12/5に、日本に住む楠木夫妻のもとで出生した。楠木夫妻は、我々の言うところの「一般人」であり、オーヴァードを知らずに生きる人々であった。彼らにとって不幸なことは、生まれたばかりの【楠木茜】に、レネゲイドウイルスが感染したことだ。完全な覚醒に至ることはなかったが、レネゲイドウイルスの活性化は、幼い彼女の体を蝕んだだろう。苦しみ汗ばむ彼女を心配して、楠木夫妻は様々な医療機関を受診した。しかし、通常の医療機関ではレネゲイドウイルスを認識できず、彼女の症状は原因不明の病として判断された。
そこに目をつけたのが、とあるセルに所属する、FHの研究者たちであった。すでに壊滅したセルであるため、仮称をFHUNとする。彼らは日常のあらゆる場面に潜んでおり、それは表の世界の医療機関も例外ではなかった。「原因不明の病」の噂を聞きつけた研究者たちは、楠木夫妻に接触をはかる。FHのメンバーと楠木夫妻の間に、どのようなやりとりがあったのかはわからない。UGNが観測できた事実としては、当時2歳の【楠木茜】はFHUNの手に渡ったこと、楠木夫妻はその翌月、事故に遭って死んだことが報告されている。
半壊した研究所の残存資料から、FHUNが行なっていた実験についての詳細が判明している。それはシンドロームの人工的な掛け合わせを行う、クロスシンドロームと呼ばれる実験だった。ピュアブリードをクロスブリードに、クロスブリードをトライブリードに、外部からの接触により覚醒させる。当時の【楠木茜】はソラリスのピュアブリードであり、その実験の検体として、多くの投薬や外科的手術を受けた痕跡があった。半覚醒の感染者である彼女の体は、本実験に好都合なサンプルだったのだろう。何度も壊死しかける幼体を、オーヴァードの力までをも用いて延命させ、実験は続けられた。
4年の年月が経過したある日、次に実験の触媒に選ばれたのは、欧州で採取された血液であった。かなり古い触媒だったが、レネゲイドウイルスの反応が検出されたため、【楠木茜】と掛け合わせることで活性化を試みたのだろう。皮肉なことに、この実験はFHUNの崩壊と引き換えに、成功を収めることになる。【楠木茜】に、ブラム=ストーカーのシンドロームをもつ奇妙な隣人が宿り、彼女は晴れてクロスブリードとなったのだ。それはのちに【Dr.】と命名される、オリジン:コロニーのレネゲイドビーイング。『彼』らの覚醒の余波で研究所は半壊し、その能力を把握できていなかっただろうエージェントたちは、黒死病に蝕まれ死に絶えた。FHUNで生き残ったものは、一人もいない。
UGNは以前から、FHUNの動向に注意を向けていた。そのためセルが崩壊した際には、近くのUGN支部から人員が集められ、その鎮圧のため派遣された。僕も、その一人だった。
足を踏み込んだ僕らが見たのは、散り散りになった研究資料、倫理を無視した実験器具、散乱するガラス。ちぎれた腕、瓦礫に潰された頭、黒く変色した皮膚、引き裂かれた胴体、辺り一面の、血の海。そしてその中央には、宙に渦巻く赤色の異形を纏った少女、【楠木茜】が横たわっていた。
当時あの惨状を見て、少女の抹殺に待ったをかけた部隊長の判断に、僕は今でも感謝をしている。おかげで鎮圧部隊には、死傷者が一人も出なかった。戦闘員が武器を収めると、赤色の渦は僕らを襲うことはなく、程なくして彼女の体へ収束していったのだ。その様子を見た僕らは、その異形には知性があることを確信した。宿主が意識を失っていても、いつまた暴走するかがわからない。幼い体に拘束具をかけられ、少女は連行されていく。そうして【楠木茜】は、UGNの監視下に置かれることとなった。後から聞いた話によれば、研究所の奥に踏み込む直前、キュマイラのオーヴァードがかすかに音を感知したという。それは空耳かと疑うほどか細い少女の声と、男とも女とも判別のつかない、不気味な声だったそうだ。
連行された【楠木茜】は尋問の際、6歳とは思えぬ落ち着き方で、僕らの質問に答えていった。難しい単語には首を傾げたが、知らない大人に怯える様子もなく、ただ聞かれたことに答えていく。その要旨としては、次のようになる。
「わたしはずっと痛い思いをし続けていた。何をされているのかもわからず、ただ痛みだけを感じていた。どれくらいたったかわからない頃に、声が聞こえた。その声は、自分は医師であると名乗り、わたしに呼びかけてきた。わたしはひたすらに、その声に応えた。そうしたら、医師が助けてくれた」
この発言を受けて、赤い異形は【Dr.】という通称を与えられ、のちに【楠木茜】のコードネームとして設定された。
またこの尋問の際に、【Dr.】とも意思疎通を図ることができた。【楠木茜】の意識と交代するように、『彼』の人格が浮上する。『彼』は僕らに対し、その悪辣さを微塵も隠そうとはしなかった。人間の血に興奮する異常性、加虐的な思考、それから真偽を確かめることはできないが、『彼』の生前の記憶についても語ってきた。それどころか、『彼』はUGNに対し、自分と【楠木茜】を売り込んで見せたのだ。
『彼』はまず、戦力としての自身の有用性を主張した。これに関しては、FHUNの結末が何よりも雄弁な証言となった。上層部は、【楠木茜】に数年の訓練を施したのちに、関東のとある支部に配属することを決めた。支部長の名前は、斧山航。彼はその地域の支部の中でも、一際戦闘に秀でたオーヴァードであった。その強さを認められた彼は、【Dr.】の監視が内密に言い渡された。そして『彼』が暴走した暁には、【楠木茜】を抹殺するよう指令が出されている。
次に【Dr.】が切り出したカードは、【楠木茜】の実験体としての価値だった。『彼』は【楠木茜】の記憶を通して、彼女に何が起きていたのかを語ることができた。それを聞き届けたUGNは、『彼』の誘いに乗った。なぜなら彼女は、FHUNのクロスシンドローム実験、その唯一の成功例だったから。
被験体 No.××××は、FHUNが施したナンバリングではない。UGNが彼女に与えた、監視対象としての番号であり、僕の研究対象の番号でもある。僕は【楠木茜】の主治医であり、彼女の観察研究を担当する、クロスシンドローム研究の責任者だ。
当時は上層部からより踏み込んだ研究を行えと、散々に言われたことを覚えている。だが僕は、必要最低限の投薬と各種検査、定期健診、経過観察のみを遂行した。それ以上の非道なことは、決して彼女にしていない。どんな大義があったとしても、それだけはしてはならない。それをしてしまえば、僕らとFHの間には、何の違いも無くなるから。けれどどんなに言い訳をしても、真実は変わらない。彼女は、自分が被験体であることを知らない。僕のことを主治医であり、後見人であると認識している。そして僕は、自分を慕ってくれる彼女に、十年間も嘘をつき続けている。僕はこの手記を彼女に見られる瞬間が、心の底から恐ろしくて、心の底から、待ち遠しい。
UGN本部在籍/
クロスシンドローム研究主任/
芹沢晃一
【遠い彼女の記憶】
これは遠い昔の、わたしの記憶。物心がつく頃には、わたしはあの建物にいた。
放り込まれるだけの白い部屋。薄暗く無機質な廊下。何をするのかもわからない機械。それから、不気味な目をした大人たち。わたしはずっと、彼等が怖くて仕方なかった。彼等がわたしの部屋に来るのは、わたしにひどいことをする時だから。
痛い。痛い。痛い。体が引き裂かれ、頭が割れる想像をする。きっと半分くらいは、本当に起きていたんだと思う。だってどんなにひどい怪我をしても、どれだけ血を流しても、気づけばいつものわたしのまま、あの白い部屋に連れ戻されていたから。こんなに痛いのなら、取り付けた機械で意識まで飛ばしてくれればいいのに、彼等はそれをしなかった。あの頃は不思議に思うこともできなかったけど、今ならわかる。彼等はわたしに、オーヴァードとして覚醒して欲しかったから、わたしの大きな感情が必要だったのだ。強く色濃い、死への恐怖が。
彼等の思惑通りに実験を続けても、きっとわたしは覚醒を迎えなかったと思う。死ぬことなんて、もう怖くなかったから。痛いのは嫌、苦しいのも嫌。でも何よりも嫌だったのは、終わりが見えないことだった。時間の間隔も擦り切れるような毎日。今日が何日で、今がいつなのかもわからない。永遠も絶望も、わたしにとってはあの建物を意味する言葉だ。ただ苦痛から解放されたくて、はやく消えてしまいたいと願っていた。
あの日は、部屋に入ってきた大人たちの話し声が、いつもより大きかったのを覚えている。なんだか急いでいるみたいで、何をするのかを聞いても、こちらに顔すら向けてくれない。合わせるつもりのない歩幅のまま、乱暴な手のひらはわたしの腕を強く引っ張った。連れて来られたガラス張りの部屋で、わたしは何かの注射を受けた。赤い色を、していたと思う。
(ああ、またはじまった。きょうのは、いつおわるかな。う、ああ、いやだ、痛い、痛い、痛い、いたい、イタイ。ーーもう、きえちゃいたい)
その瞬間、
『ーー消える?そいつはまた、随分と勿体無いことを考えるんだな』
頭の中に、声が響いた。
『へえ、面白いことになってるな。俺は確かにあンとき、ボンクラどもにバラされて死んだと思ったんだがーー』
不気味な大人たちとも違う。言葉ということだけがわかる、不思議な音。
『ーーいったい全体、どういこうことだ?』
この建物で、初めて会話をしてくれたのが彼だった。あまりの驚きに、一瞬だけ痛みを忘れる。
(……あなたは、だれ?)
『俺が誰かって?今となっちゃあ名前なんてどうでもいいが、そうだな』
『俺はお医者様だ。“せんせい”ってやつだよ』
(せんせい?……じゃあ、せんせいはどこにいるの?)
声は笑うように答える。
『俺が知りたいね』
わたしに少しの余裕があるのを、大人たちは察したのだろう。一際強い痛みが、身体中を駆け巡る。
(ひっ、あ、ああああああ!!)
『おいおい、大丈夫か?このままくたばられても困るんだがなあ。ーーああいや、なるほどなァ』
『死ねないのか、お前』
(う、ああ、もう、いやなの。きえたい、きえたい、はやく、もう、おわらせて!)
強く、つよく願った。届いて欲しいと思った。見知らぬ誰かに。目の前の声に。
それは今までで一番強い、はじけるような、わたし自身の感情だった。
『ーーいいぜェ。その願い、聞き届けてやる』
『哀れな患者を救うのは、お医者様のだぁいじな役割だからな』
『お前を救ってやる。お前の望み通りに、終わりを与えてやるよ。どうやら今の俺には、それが出来るみたいだからなァ』
『だから、さァ、はやく、オレを呼び醒ませ!!』
「ーーうん」
思考するよりも前に、喉を震わせていた。
「おねがい、せんせい」
つん裂くような耳鳴りと、目の前を覆った赤色を最後に、わたしの意識は途絶えた。
顔に落ちてきた液体の感触で、目が覚める。痺れの残る体を起こして、視線を彷徨わせた。ふらつくわたしの視界には、ーー見覚えのある建物の、成れの果てが映っていた。壁が壊れガラスが散乱し、水溜まりのような赤色が、あたり一面を染め上げている。所々に、赤や白、黒の塊が落ちている。
そして、あの音が聞こえてきた。
「ヒ、ヒ、ヒハ、ヒッハハハッハハハハ、最ッ高の気分だぜェ!!」
(せんせいのこえだ。なんだか、とてもうれしそう)
「ああ、ヒヒッ、起き抜けにこンなものが見られるなんて!!バケモノになって産まれ直した甲斐があったッてもんだなァ」
(わたしのうえでくるくるしてる、これ、せんせい?)
「おっと、起きたか?茜」
思うように体を動かせなかっけど、わたしはとても驚いた。わたしの頭上に、赤色の液体が浮いていたからだ。それは千切れたカーテンのようにゆらめいて、わたしの名前を呼んだ。わたしは枯れ果てた喉から、なんとか声を絞り出す。
「せ、ん、せい?」
「ああそうだ、無事だったようで、何よりだよ」
さっきよりも落ち着いた声色で、わたしに話しかけてくる。
「気分はどうだ?ーーお前の望み通り、全て、終わらせてやったぜ」
その赤い液体に手はなかったけれど、医師が荒れ果てた部屋を指し示したのだと感じた。確かに、もう痛みは襲ってこない。けれど、そうだ。
「……こわいひとたちは?」
「あァ?その辺に散らばってるだろ?」
そう言われて初めて、あれらが何かを正しく認識した。水溜まりに落ちている塊。赤、白、黒。あれは、あの不気味な大人たちなのか。ずっと、ずっと、わたしの絶望の象徴であり続けた彼等は、なんともあっけなく、ぐちゃぐちゃになって落ちていた。そこでようやく、わたしの置かれている状況に、理解が追いついてくる。
「みんな、きえちゃったんだね」
怖かった。あんなに酷い仕打ちを受けたのに、彼等の有様に心がすくようなことはなかった。ただ、初めて目の当たりにした凄惨な死の光景に、それを生み出したのがわたしだということに、怯えていた。
「なんだなんだ、後悔してるのか、お前!あンだけのことをされておいて?」
「こうかい?……わかんない。でも、こわい、こわいの」
「怖い、ねえ」
ふむ、と少し間を置くと、医師はゆっくりと話し始めた。
「少し、話をしてやる。いいか?よぉく聞けよ、茜」
「俺はお医者様だ。……ここでの医者が何をしてるのかは知らねェが、少なくとも、俺の仕事は単純なことだった」
「患者、あァ〜、苦しそうなヤツの体から、いらねェモンを出してやるんだよ」
「体にとって邪魔なモンは、放っておくとそのうち悪さをしだす」
「だから俺は、そいつらを外に出してやっていた」
「そうすることで、哀れな患者どもの身体の均衡を、取り戻してやれンだよ」
難しい話だった。でも、あの大人たちのように、わたしを無視したりしなかった。こちらに気をつかうように、わたしにもわかる言葉を使おうとしてくれる。だから、じっとその言葉を聞き続けた。
「こいつァ俺の仕事の話だが、そこに転がっている廃棄物どもにも同じことが言える」
「俺はお前の記憶を見ることができる。お前にはわからない言葉も、理解することができるんだ」
「笑えるくらいに不用心だよなァ?お前がいる目の前で、何でもかんでも口から溢してたみたいじゃねェか」
「あの肉塊どもは、世界の転覆を企む“裏切り者"だったンだとよ」
「あいつら“裏切り者”は、この世界という身体の均衡を崩す、消されて当然のいらねェモンだ」
「お前も、俺も。この世界の均衡を守ったんだよ、茜」
均衡を守る。その言葉にどんな意味があったのか、あの頃のわたしにはわからなかった。けれど、不明瞭なはずのその声は、わたしを恐怖から遠ざけてくれた。
「……それが、せんせいのおしごと?」
「うん?……あァ、そうだな。そうだ。世界の不純物を取り除く、それが俺の役割であり、使命だ」
良いことを聞いてくれたなァ、と言って、医師はうれしそうに宙を舞う。そしてピタリと動きを止めると、今度はわたしの近くに降りてきた。なんだか少し、落ち込んでるようにも見えた。
「ああ、だが、とっっても残念だ。だってお前は、ここから消えたかったんだろう?」
「なァ、もうお前に、痛みを与えるやつはいないンだ。どうだ?やりたいことはねェか?欲しいものは?……もうちったァ、生きてみようとは思わねェか?」
(やりたい、こと?)
「……せんせい。やりたいことって、なにをするの?」
「……欲のねェヤツだな。まァ、当然か。この世界に何があるのかも、お前にはわからねェだろうからな」
「だがなァ。俺は、お前に生きて貰わねェと困るんだよ」
「なんせ、お前が消えちまったら、俺も一緒に消えちまうんだから」
わたしが消えたら、医師も消えてしまう。その言葉に、ひどく動揺した。わたしには、やりたいことも、欲しいものもなかった。生きることに、どんな意味があるのかもわからなかった。
(でも、きっと、せんせいはちがう)
医師は、自分には使命があると言った。わたしと違って、医師には、やらなきゃいけないことがある。
「……せんせい」
「うん?どうした、茜」
「わたしのからだ、せんせいにあげる」
頭がくらくらして、視界も霞んでいた。でもそれだけは、伝えなきゃいけないと思ったのだ。朦朧とする意識を無理やり繋ぎ止めて、宙を舞う赤色へ、言葉を紡ぐ。
「だから、おねがい。……きえないで、せんせい」
瞼が落ちる。全身から、力が抜けていくのがわかった。まだ、返事を聞いていないのに。
「ーー安心しろ、茜。ちゃあんと聞こえたぜェ?」
「何かの気配が近づいてきやがる、お前はそのまま寝てろ」
「あとは、オレがどうにかしてやるからさァ。ヒ、ヒヒッ、ヒハハハハッ!!」
薄れていく意識の中、医師の声を聞いていた。とても、嬉しそうに笑っていた。
あれは遠い昔の、わたしの記憶。わたしは今も生きている。医師は今も、使命を果たすために戦っている。
「ーーこの日常の均衡を、崩すもの。すべて、取り除かないといけないの」
そうして今日も、わたしはあの人の武器になる。
「お願い。Dr.」
【おまけ】
おまけです。キャラメモ書きながら思ったこととか小ネタとか色々。
・キャラメモ総文字数(おまけ抜き)8000字越えですってよ奥さん!!バカの所業ですわ!!
・実はDr.の生前についても設定があるので、書けば書くだけ文字数が増えます。
・重たいもの背負わせてごめんな芹沢さん。でも少女の残酷な運命を直視して曇ってる大人は最高に好きだよ。かわりに茜ちゃんから【親愛】のロイスを取ったからね。
・FHUNのUNはunknownから取ったんですけど、Not FoundでNFでもよかったかなと思った。いつか直すかも。
・斧山さんに関してはたくくんに許可を取りました。1卓目のクライマックス後のDr.と斧山さんの会話が伏線みたいになった。彼と同卓するときは必ず【信頼】でロイスを取ります。
・意図したわけではないんですけど、茜ちゃんの射撃エフェクトが【痛みの水】だの【苦痛の矢】だのなので、茜ちゃんの記憶から生まれてそうとなった。
・Dr.の一人称は、「俺」の時はお医者さんぶってる時、「オレ」の時はほぼ素です。
・Dr.が問答無用で体を乗っ取らないあたり、体の主導権は茜ちゃんにありそう。茜ちゃんが「自分の体はDr.のもの」というスタンスを捨てれば全然Dr.のこと制御できると思う。
・RPをしてて茜ちゃんが思ったより他人を好きになってくれたので、好感度とか信頼値の高い相手をDr.が殺そうとしたら戸惑ってくれるはず。
・Dr.は「残念だな茜。あいつは裏切り者になってしまったんだ」って唆してくるので相手への感情が薄いと普通に殺しちゃう。やり口がナチュラルボーンFH。
テキストカラー:#cc1237
セッション履歴
No. | 日付 | タイトル | 経験点 | GM | 参加者 |
---|---|---|---|---|---|
フルスクラッチ作成 | 0 | ||||
チーバ、かとゆうボーナス | 4 | ||||
1 | 10/23 | Gray Phantom | 20 | チーバ | おがそニッキたくもりたこ |
2 | 12/4 | Kingdom Come | 20 | チーバ | おがそニッキたくもりたこ |