翠奈は元々FH出身だった。

巨大フラスコの中で生命を与えられ、そのままFHの世界で愛も優しさも与えられず、ただただ欲望のままに教育される。結果、生まれたのは「異性への誘惑、搾取」という歪んだ欲望であった。13歳にしてUGNエージェント達を搾取し手駒に入れる才能まで発揮していた。また、マスターレイス間近であった全盛期の春日恭二に教育されていた時期でもあり、実力も人一倍にあった。

しかし……その欲望は無理矢理体現させられた物。真の欲望などではなかった。翠奈はそれに気づく事なく、ただ異性を誘惑し搾取し続けていた。

また、UGNからの尋問、拷問を想定した訓練が好きで、よく異性をいじめたり、逆にいじめられていたとか……もうこの時点で変態だった。いや、変態になるように「造られた」のかもしれない。事実、この時点でもボンキュッボンで、他のFHチルドレンの男達とアレな関係になる事も多かったという。

そんな時、夕海 晴翔というFHチルドレンに出会う。彼もまたフラスコの中で生命を与えられた存在で、「幸せな世界を築きたい」という欲望を持っていた。彼を見た翠奈は、心のどこかでずっと知らなかった感情を知る。性的対象として見ていなかった男相手に、恋愛感情を目覚めさせたのだった。

そうして一緒に過ごしていく内に打ち解けていく。そして翠奈は気がつく。本当に彼を好きになってしまったと。性的ではなく、純粋な恋として。そして、真の意味の「欲望」として。そう、翠奈の真の欲望は『「純粋」な「愛」』だったのだ。

そして、それと同時期に思う事があった。彼の欲望、幸せな世界を築く方法だ。これは、もしかしたら真の意味で「人間とオーヴァードの共存」が、幸せな世界を築く一歩に繋がるのではないか、と。同じく翠奈も、思うようになったのだ。

そして、、14歳の頃。
二人は、それぞれの愛を打ち明ける。
彼もまた、翠奈に恋していたのだった。

そうして……造られた存在同士は、FHから脱走する事を試みる。FHに居ては、自分達の欲望を叶える事は出来ないと気づいたからだ。

しかし、彼女らは気付いていなかった。自分達はFHで立派に欲望を叶えようとする存在などでは無く、ただ利用され使い捨てられる都合の良い存在であったということ、そんな身分ではなかったということを。

直ぐに察知され、必要無いと判断され始末されることになり、FHから「裏切り者」扱いされ、追手がやってくる。圧倒的実力と数に、追い詰められて絶体絶命になった。

晴翔は、翠奈を逃した。

晴翔はもう、ここで死ぬ覚悟が決まっていた。ただ、翠奈には生きていて欲しい。自分の欲望と意思の「唯一の理解者」だった君に生きていて欲しかったのだ。

そうして無理矢理エフェクトの力で翠奈を逃し、ただ一人でFHの追手と死闘を繰り広げ、命を絶たれたのだった。

翠奈は、深い悲哀と絶望に飲み込まれる。

自らがただ利用されていた存在であり、道具以下の存在としか思われていなかったこと、FHという最も信じていた組織で生き、習い、学んだ事がめちゃくちゃに歪んでいた事。そして、晴翔が、自分を逃して死んだ事。

……あの時、力があれば。
自らの弱さに怒りが芽生える。

翠奈は誓った。強くなって、晴翔を殺したFHを倒すと。そして、人間とオーヴァードの共存という世界を築くと。