名家の娘として生まれ厳しくも愛されて育った。
厳しすぎて息抜きの仕方がわからなかったり、関りを持つ友人に口を出されたり、タイムスケジュールを細かく決められ自由の時間がなかったり、そのせいで友達もろくにいなかったり、いのりにとって最高の生活かと言われれば不満は沢山あった。
どうして自分は他の子たちと一緒に遊べないのだろう。どうして友人関係に口を出されなければいけないのだろう。
どうして、どうして。でもいのりのきょうだい達も同じように育てられていた。
なら自分がこの家に生まれたからには仕方ない事なのだろう。そう諦めていた。
自由になりたいと自分の家から逃げ出したいとも思った事だって数えきれないほどある。
それでも確かに愛されていたしいのりも家族を愛していた。
だから色々思うところはあってもしっかりと親の言う通り生きてきた。
でも、それは、ある日突然すべて奪われることになる。

いのりの両親が主催者として開催していたパーティに参加していた時の事だった。
そのパーティには両親の会社の大事な関係者や親戚、色んな人が参加する大規模なものだった。
そこでレネゲイドが関わる事件が起きた。
一瞬で楽しそうだったパーティは一転。阿鼻叫喚な地獄のような場所へと化した。
皆必死に逃げ出そうとするが、みんながみんなパニック状態になってしまっており、逃げだすことすらままならなかった。
いのりは恐怖でその場に座り込んで呆然するとしかなかった。
そんないのりを助けようと、一緒に逃げようと兄が駆け付けてきてくれた。
兄の手を取れば安心感からかなんとか足が動き一緒に逃げようとした。
しかしそんなときにレネゲイドに襲われそうになった。いのりを突き飛ばして助けたのは一緒に居た兄だった。
兄はいのりの目の前でどんどん身体が血で汚れ、蹂躙され、ついにはこと切れて動かなくなった。
あまりに突然のことでただ茫然と眺めていた。何が起こったのかすぐに理解できなかった。
兄を蹂躙して満足したのか、それは兄から離れていった。立たない足をずるずると引きずって兄の元により声を掛けた。
しかしどれだけ声を掛けても揺すっても返事をしてくれることも目を開けてくれることもなかった。
そんなとき、近くで他の兄妹の叫び声を聞いた。そちらの方を見れば兄妹も襲われて今にも死にそうだった。
これ以上兄妹を失いたくない。そんなときに彼女はオーヴァードとして覚醒した。
自分でも何が起こっているかはわからなかったがその時は家族を守るのに必死だった。
しかし助けたはいいものの、出血多量で助かることはなかった。
そうして外部から助けが入り収集がついた頃には既にパーティの参加者の多くの死者、重傷者を出して幕を閉じた。

あのパーティには各会社の重要人物がいた。
その為色んな会社はその後処理に追われたりと色々大変だったそうだ。
いのりの家も例外ではなかった。
家族は全員亡くなり、親戚も多くの者が亡くなるか重症を負い会社の経営も困難な状態になってしまっていた。
ろくに会社を継げる者もいなかったためいのりが会社を継ぐことになった。
後継ぎとしての教育をまともに受けており、継げそうなものが彼女以外にいなかったからだ。
本来だったら兄が継いでいただろうがその兄もいない。仕方なくいのりが継ぐことになった。
しかしいのりにとってはそれは好都合だったのかもしれない。いのりは多くのものを失いすぎた。
その哀しみを埋めるように、余計なことを考えないで済むようにただただ仕事をしまくった。
UGNの仕事、会社の仕事。どちらも寝る間も惜しんでこなした。
幸いというべきかオーヴァードになってからは頭の回転が尋常ではなかったから両立ができてしまった。
それから4年が経った今はある程度感情の整理がついており、比較的落ち着いている。
会社の仕事も信頼できる者を育成して今はその代理人に一任している。
しかしこの経験から身近な人を失うことに恐怖心を覚えており、大事な人をあまり作りたがらない傾向にある。
しかし人付き合い自体はとても好んでおり、寧ろ孤独に拒否反応を示すため誰かと一緒にいたがる。（言わないけど）
UGNで気にせず人と交流できているのはオーヴァードの為ちょっとやそっとじゃ死なないとわかっているから。
頑丈だからあの時のように簡単にいなくならない。そう信じている、信じたいからこそ傍に置くことができている。

今は厳しくする親がいないから、色んな人達と交流することができている。
皮肉にも彼女はずっと欲していたものを手に入れた。…一番大事なものと引き換えに。